04
冒険者ギルドはすぐに見つけることができた。筋骨隆々の、いかにも冒険者ですといった人が大勢出入りしているので、すぐに分かるというものだ。
王都の建物はどれも三階、もしくは四階建ての大きなものばかりだ。冒険者ギルドもそれに漏れず、四階建ての建物だった。ここのギルドも一階には酒場が入っているらしく、扉の前に立っているだけでも賑やかな声が聞こえてくる。
扉を開けて、中に入る。いくつかの視線を感じるが、それだけだ。いちいち入ってきた人を気にする余裕なんてないのだろう。
ギルドの内装は西の街と大差ないのだが、雰囲気はまるで別物だった。
まず、人が多い。カウンターにいる受付は八人で、三人が依頼の受け付けを担当、もう三人は冒険者への対応を担当、残り二人は報酬の支払いなどの雑事を担当しているようだ。そしてそのどの列も、多くの人が並んでいた。
「うわあ……すごくたくさん……」
「多いね。私は、どこに並べばいいのかな……」
今回ここに来たのは、西の街で依頼を受けたためだ。依頼といってもお使い程度のもので、あちらのギルドからここのギルドまで手紙を届けてほしいというものだった。ちなみに西の街のギルドは支部で、この王都のギルドが本部らしい。
――イリス。上に案内が書いてあるよ。
――上? ……あ、ほんとだ。
器用なもので、天井に直接書かれていた。依頼人の方はこちら、冒険者の方はこちら、と書かれている。右端がその他、となっていた。イリスは冒険者ではあるが今回は依頼を受け付けにきたわけではないので、その他が適切だろう。
その他の列はあまり混雑しておらず、二人並んでいるだけだった。その二人ともが冒険者のようで、聞こえてくる話によれば、二人とも別の街に拠点を変えるそうだ。
――そんな手続きがいるの? 何もしてないけど。
――んー……。多分、イリスはいてもいなくてもどっちでも構わないように扱われてると予想。
――なにそれひどい。
だがよくよく考えれば、イリスとしては丁度良いかもしれない。今後もおそらくあちらこちらに行くだろうし、そうでなくても日本に行けば一ヶ月近く不在になっている。ギルドの判断は正しいものだろう。
――不興を買いたくないってだけだろうけどね。
――むう……。
そんなにひどいことをした覚えはないのだが。どうしてこのような扱いになっているのだろう。
――あ、はい。そうだね。
――なにその反応?
いまいち釈然としないが、イリスの順番が来たので一先ず置いておくことにする。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」
受付に座るのは若い女だ。イリスから見ても、すごく美人さんだと思う。ここまで培ってきた人の価値観に照らし合わせれば、という感覚だが。
――うん。すごく美人。そしてでかい。よし殺せ。
――何言ってるの?
どうしてハルカは時々過激になるのだろうか。不思議に思いながらも、イリスは空間魔法の穴を作り出す。それに驚いて目を丸くする受付の女に、イリスは封筒を差し出した。ギルドから預けられた封筒で、中に大事な書類が入っているのだとか。
「西の……、えっと、端っこの街の支部からお手紙です」
今頃になって思い出す。街の名前を聞いていない、と。
――今更だねえ。
自分でもちょっと呆れている。とても不便だ。
これでは分からないかもしれないと思ったが、女はありがとうございますと封筒を受け取った。特に反応を示さないということは、あれで分かるということらしい。
「失礼ですが、ギルドカードの提示をお願いできますか?」
「分かった。フィア」
「うん」
フィアのギルドカードを受け取り、イリスのカードの上に置いて差し出す。イリスの方は二枚あるが、念のため両方とも渡すことにした。ギルドが相手なのだから隠す必要もないだろう。
女は三枚あることに怪訝そうにしていたが、とりあえず確認することにしたようだ。イリスからカードを受け取ると、一枚ずつ内容を確認していく。
「フィア。ランクはE。まだ登録間もないのですね。治癒士。珍しい」
なるほどと頷きつつ、フィアのカードをカウンターに置く。
「イリス。ランクはB。その年ですごいですね……。わ、貴方も治癒士ですか! 熟練の治癒士は貴族のお抱えになってしまうので、とても有り難いです。歓迎いたします」
本当に嬉しそうで、女は満面の笑顔だ。やはりここでも治癒士というのは珍しいものなのだろう。
イリスのBランクのカードをカウンターに置いて、最後のカードを目にして。
「おや? こちらもイリスさんのカードです、か……?」
女の表情から感情が抜け落ちた。まるで、見た物を信じられないといった様子だ。次第にその目が大きく開かれていき、カードを持つ手が震え始めた。さすがに心配になって声をかけようとしたところで、
「失礼します! 少々お待ちください!」
そう言って、部屋の奥へと駆け出していってしまった。
「どうしたのかな?」
「そのカードが原因だと思う……」
フィアが言っているのはSランクのカードだろう。なるほど、確かに可能性はある。
――むしろそれしかないよ。
何故かハルカが呆れているが、意味が分からない。
しばらく待つと、先ほどの女が戻ってきた。イリスに深く頭を下げて、言う。
「お待たせしました。ギルドマスターがお会いになるそうです」
「え。何急に。会わないとだめなの?」
女が泣きそうな顔になっていた。そんな顔をされると、面倒だから会わないとは言えなくなってしまう。ちょっとずるい。
「はあ……。分かったよ。行きます」
「ありがとうございます。お手紙について確認したいそうなので」
何故か後半は少し大きめの、まるで聞かせるような声だった。事実、聞かせることが目的だったのだろう。女が奥へと駆け出した時に、こちらの様子を気に掛けている数人がいた。
「こちらへどうぞ」
女がカウンターの隅を持ち上げて道を作ってくれる。どうやら簡易的な扉代わりになっているらしい。フィアと一緒に、イリスはカウンターの中に入り、女と一緒に奥の部屋へと向かう。
奥の部屋は階段になっていた。上階への螺旋階段があり、その周囲は資料の棚で埋められている。女の案内のもと、螺旋階段を上り三階へ。
階段を上った先、三階は扉が三つあるだけだった。中央の扉がギルドマスターの部屋で、両隣は会議室となっているらしい。
女が扉をノックするとすぐに、どうぞ、という声が返ってきた。
「失礼します」
女が扉を開け、中に入っていく。イリスとフィアもそれに続く。
その部屋は整理整頓が行き届いている部屋だった。本棚が壁面にいくつも並び、様々な書類が纏められているのが分かる。他にも、ギルドマスターの物なのか、大剣が壁に立てかけられていた。
その部屋の中央で、男が仁王立ちで待っていた。初老の男で、よく鍛えられているのが分かる体つきだ。服の上からそれが分かるほどだ。
「よく来た! 俺がギルドマスターのビルドーだ!」
無駄に声が大きい。びりびりと、その声だけで窓が震えている。イリスだけでなくフィアもわずかに顔をしかめている。
「では失礼致します」
案内をしてくれた女はそう言って早々と退室してしまった。まるで逃げられたような気分だ。イリスは深くため息をつくと、ビルドーと名乗った男に向き直った。
「えっと、初めまして」
「おう! 初めまして! こうして会うのは初めてだな! まあ色々と報告は受けているが! 信用できるSランクが増えることはとても喜ばしい! ところで」
ビルドーの顔が真顔になる。真剣味を感じる表情で、さらに声量も一気に落とされた。
「ドラゴンってのは本当か?」
どうやら報告を受けているらしい。その点は予想していたことなので怒るつもりはない。イリスが頷くと、ビルドーは無遠慮にイリスのことを見つめてくる。品定めするかのような視線で少し不快感を覚えるが、いきなり現れたイリスを信用できないのは当たり前だろう。
しばらく待つと、ビルドーは小さく頷いた。
「さて、こちらで手配してほしいことはあるか! 協力しよう!」
先ほどまでの大声に戻った。真面目な話は終わりということか。大した話はしていないが、ビルドーがそれでいいのなら、イリスも文句はない。
「観光だから別にないかな。宿は友達が手配してくれることになってるし……」
「ふむ。高位ランクだけが宿泊できる特別な宿があるんだがな!」
「う……。いや、でも、私は美味しいものを食べにきただけだから……」
「そこの料理人は優秀なシェフだ! さらに食材の持ち込みで料理もしてくれるぞ!」
「詳しく」
壁|w・)感想の返信が遅れていますが、しっかり読んでいます。
返信は時間ができたら行いますので、その点だけご了承お願いします。




