04
「何かあったら、いつでも駆けつけてあげるから」
そう言ってフィアの頭を撫でると、フィアは小さく頷いた。どうにか乗り越えた。次は負ける自信がある。
「かなちゃんってことは、健一も行くのか?」
「おっちゃんは死んでこいって言ってんの?」
「あ、うん。すまんかった」
どういうことか分からなかったが、ハルカ曰く、男の子は女の子の集まりに参加しにくいそうだ。その割に、健一とかなちゃんはよく一緒に帰ってきているような気がする。また何か違うのだろうか。
「明日はかなちゃんが迎えに来てくれるの?」
イリスがそう聞くと、フィアが頷く。なんだ、もう決まっているんじゃないか。
「せっかくなんだから、楽しんでくるようにね」
フィアは小さく頷いた。大丈夫だろうか。
・・・・・
さて、朝になりました。希望の朝です。いえ、フィアにとっては緊張の朝なのですが。
今日は友達のかなちゃんに家に来てねと誘われています。その時は勢いで行くなんて言いましたが、後から考えると一人で行くことになるということです。もちろんかなちゃんが送り迎えをしてくれるそうですが、それでもやっぱり不安なものは不安です。
とても怖かった日から、フィアはずっと大好きなお姉ちゃんと行動を共にしています。お姉ちゃんが一緒に来れない時は、ディアボロさんが一緒でした。とても頼りになるので、そちらでも安心でした。
ですが今日は、そのどちらもいません。お姉ちゃんに一緒に来てほしいと言ってみましたが、一人で行きなさいと言われてしまいました。この世界は安全だから、と。でもテレビで見るニュースというものには怖いお話があるのですが、本当に大丈夫なのでしょうか。
今は休憩所でかなちゃんを待っています。今だけはお姉ちゃんも一緒です。フィアが不安に思っていることが分かっているようで、頭を撫でてくれています。
「お姉ちゃん、やっぱり一緒に……」
「だめ」
「だよね……」
もう一度お願いしてみても、すげなく断られてしまいました。しょんぼりです。
さらにしばらく待っていると、やがて休憩所の戸が開かれました。入ってきたのはかなちゃんです。フィアを見ると、満面の笑顔になりました。
「フィアちゃん! おはよう!」
なんだか、その笑顔を見ているとフィアも嬉しくなってきました。自然と笑顔になって、
「かなちゃん、おはよう!」
そう元気よく返事をします。隣では、お姉ちゃんが噴き出しそうになるのを堪えていました。
「イリスさんも、おはようございます」
「うん。おはよう。今日はよろしくね」
「任せてください!」
どんとかなちゃんが胸を叩きます。そしてすぐに、フィアへと向き直ってきました。
「行こっか」
そう言って、手を差し出してきます。この手を取って出かければ、もう夕方までお姉ちゃんと会えなくなります。どきどきと、なんだか心臓がうるさくなってきました。
「フィア。本当に行きたくないなら、それでもいいよ?」
小声でお姉ちゃんが聞いてきます。フィアのことを気遣う、優しい声音です。甘えたくなってしまいますが、けれど、かなちゃんと約束したのはフィア自身なのです。ここで行かないというのは、あまりにも身勝手に過ぎるでしょう。
「フィアちゃん?」
首を傾げるかなちゃんの手を、取りました。
かなちゃんと一緒に、町を歩きます。車という乗り物がたくさん行き交っています。この世界の大人は、訓練さえ受ければ、魔法の才能がなくてもあれに乗れるそうです。
かなちゃんと一緒に、のんびり歩きます。かなちゃんの方が背が高いのですが、こちらの歩幅に合わせてくれているので、のんびりと歩くことができます。歩きながら、周囲を観察します。お姉ちゃんや新橋さんたちから事前に色々と教わりましたが、やっぱり実際に見ると驚きでいっぱいです。
大きな建物。固い地面。透明な壁。見るもの全てが新鮮です。
特に驚きなのが、人そのものです。誰も、戦いなんてできそうにありません。この世界では狩りなんてせずに動物を育てて食べるそうです。なるほど、とても効率がいいと思います。最近フィアのペットになったファトムラビのようです。
「到着!」
そんなことを考えていると、かなちゃんの家にたどり着きました。
かなちゃんの家は、お店のようでした。お庭にいくつかテーブルや椅子があって、何人かの人が何かを食べながら談笑しています。その奥、建物は透明な壁になっていて、中の様子を見ることができました。そこにもテーブルと椅子が並んでいます。奥には透明な入れ物があって、食べ物が並んでいるようでした。
「私の家は喫茶店なんだよ。ケーキもお母さんがここで作ってるんだ。あとで持ってきてくれることになってるからね」
ケーキ。テレビで見ましたが、ふわふわな食べ物です。実際にはまだ見たことがありません。とても楽しみです。
かなちゃんと一緒に喫茶店の側面へ。新橋さんの家でも見た玄関がありました。お店の裏側が居住スペースなのだそうです。
かなちゃんに手を引かれて、家に入ります。すぐ側の階段を使って二階へ。二階には部屋が四部屋あって、そのうちの一つがかなちゃんの部屋だそうです。
かなちゃんの部屋は柔らかいカーペットが敷かれていました。あとは、ベッドとテレビ、本棚があります。窓にはぬいぐるみが飾られています。ぬいぐるみの一つ、ウサギのものをかなちゃんが渡してくれました。もふもふしてます。でも残念、ファトムラビの方がかわいい。……はず。
「かわいいでしょ?」
「うん。……えへへ……」
ごめんファトムラビ。やっぱりこの子の方がかわいいかもしれない。
かなちゃんが出してくれた座布団というものに座ります。ぬいぐるみは抱えたままです。ふわふわが気持ちいいんです。
「さてと……。ケンからゲームを見せてやれって言われてるんだけど、それでいい?」
一瞬誰のことか分かりませんでしたが、すぐに思い出しました。健一さんのことでしょう。ゲームというものも、一応やったことがあります。テレビを使って遊ぶものです。ぱずるげーむを遊ばせてもらいました。ボタンを押すとその通りに画面が動いてびっくりしたものです。
「ケンの家にあるゲームは古いやつばっかりだからね。ここのは最新だからすっごく綺麗なんだよ。まあ、お兄ちゃんのものを借りてるんだけどね」
かなちゃんがテレビの方でごそごそとし始めました。なんだか見たこともない黒い箱です。かなちゃんがボタンを押すと、テレビに映像が映りました。
「単純なものは後にして、映像で驚かせようかな」
そんな言葉の後にテレビ映し出されたのは。
人間でした。
人間です。本物の人間です。人間が、大きな剣を背負っています。ケビンさんみたいです。でも、とても細いです。あんな細身の人がどうやって剣を振り回すのか。ともかく、冒険者さんのようでした。
かなちゃんがコントローラーで何かをすると、その人が走り始めました。近くの、なんだかよく分からないまるい動物……? に剣を振ります。掛け声と同時に剣が振られ、動物を真っ二つにしました。そしてすぐに動物が消えてしまいました。
「わあ……」
なるほど。これはゲームではなく、遠くにいる誰かに指示を与えるもののようです。この人はその指示に従って動いてくれるようです。信頼関係のなせる技でしょう。すごい。
「まあ単純に言うと、こんな感じで敵を倒していくゲームだよ」
「え? ゲーム?」
「うん?」
きょとんと。お互いに顔を見合わせます。なんだか、噛み合っていません。
「かなー! お菓子取りに来なさい!」
不意に、知らない声が下の方から聞こえてきました。はーい、とかなちゃんが返事をします。
「あ、セーブデータはちゃんとあるから、遊んでてもいいよ」
そう言って、かなちゃんは部屋を出て行ってしまいました。
壁|w・)主人公交代! ……違いますよ?
いつも違いフィア視点なので、地の文を変えてみました。