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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第三話 異界:初めての街と冒険者
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ちょっとだけ痛々しい表現があるやも、です。

 そうして決まった内容には、毎朝イリスが商会ギルドにポーションを持ち込み、さらに商会ギルドがケイティの商会へと運んでくれるという内容がある。これは作成者が誰かを特定されないようにという措置らしい。特定された場合、あまり良いことにはならないはずだ、と。

 お金は冒険者ギルドに届けられ、そこで受け取ることになっている。

 また、イリスがこの街に滞在している間の宿泊費用はケイティが負担することになった。輸送費がかからなくなった分、とのことだ。


 ――この後はどうするの?

 一先ずの予定は全て終えたことになる。ハルカに聞かれて、イリスは少し考える。特に目的はないのだが、しばらくはこの街に滞在して美味しいものを探すのも悪くない。昨日の食堂での発見もあるし、まだまだ美味しいものが探せばあるはずだ。


 そろそろフィアも宿に戻っている頃だろうし、フィアと相談して決めよう。そう考えて、宿へと急ぐ。

 だが帰り着いた宿には、まだフィアは帰っていなかった。


 ――まだ遊んでるのかな?


 眷属の場所は把握できる。別れた場所とはまた違うところにいるが、子供が遊んでいるのだ、色々なところに行くだろう。もしかしたら、街を案内してもらっているかもしれない。それならちょっと羨ましい。


 ――イリスもケイティとかに案内してもらえば?

 ――お金取られそう。

 ――いや、さすがにそれはないと……思う、けど……。否定できない……。


 イリスの中でのケイティは、金に関わることなら信用できるという評価だ。逆に言えば、何かを頼めば金を取られるというイメージがある。

 とりあえず、フィアが戻ってくるまではのんびり待っていよう。

 そう思っていられたのは、最初だけだった。


「……っ!」


 イリスが息を呑んで立ち上がった。その顔には、今までにない焦燥感が浮かんでいる。


 ――イリス? どうしたの?

 ――フィアの気配がなくなった。

 ――え? どういうこと?


 ドラゴンは自分の眷属の居場所が分かる。眷属とはそういうものだ。だが実はそれには例外がある。それは、眷属に意識がない場合。寝ていたり、もしくは、気絶していたり。

 遊んでいる間に眠くなる。確かにその可能性はあるが、しかし妙な胸騒ぎを覚えてしまう。

 イリスは一先ず、子供たちと別れた場所に向かった。




「フィア? もう帰ったよ?」


 四人組の子供たち、今回も男の子が代表して話をしてくれる。その男の子の発言に、イリスは凍り付いてしまった。


「その……。いつ?」

「結構前、かな? 冒険者っていう人がきて、ギルドからの緊急の依頼があるから来てほしいって。正式な文書とかいうのも出してたよ」

「なにそれ……」


 正式な文書など分かるわけがない。イリスもフィアも、未だ登録したばかりで見る機会などなかったのだから。相手はそれを知っていて、これが正式な文書だと見せたということか。

 つまりは、登録したあの場の誰か。そしてすぐに、一つの視線を思い出した。フィアを見ていたらしい視線に。

 男の子に礼を言って、ギルドに向かう。もしかすると、本当にギルドにいるのかもしれない。




「フィア? 来てないぞ」


 答えてくれたのはケビンだ。今日はずっとギルドで待機していたらしい。こちらとしては助かるが、それでいいのかAランク。


「カトレアは?」

「知らない、ね」


 二人とも見ていないらしい。イリスが小さく舌打ちすると、ケビンが薄く目を細めた。


「いなくなったのか?」

「うん。子供たちと一緒に遊んでいたはずなんだけど」

「攫われた、か……? どうして目を離した。天族なんて奴隷商人が好みそうな獲物だろ」

「へ?」


 奴隷というのは分かるが、奴隷商人とは何だ。イリスが本当に知らないことを察したのだろう、ケビンは大きな舌打ちをした。


「果て無き山から来たって聞いた時に説明するべきだったな。奴隷にはいくつか種類があるが、一つの例外を除き、その全てが国で認められたものだ。借金とか犯罪とか、本人に原因があるものだな」

「例外は?」

「攫われて、売り払われたやつだよ。当然ながら犯罪。違法。問答無用で死刑だ。それでも、かなりの金が動く。毎年被害がある」


 フィアもそれで攫われたということか。それなら、もう足で探すことは不可能に近いだろう。それはケビンとカトレアも分かっているのか、苦々しい表情を浮かべている。


「くそ、悪い。本当にもっとちゃんと説明しておいてやれば……。どうした?」


 ケビンの言葉を聞き流し、イリスは感覚を研ぎ澄ませる。奴隷。売る。いきなり殺されるわけじゃない。つまりは、フィアはいずれ起きる。それを、待つ。

 椅子に座り、じっと待つ。ただひたすらに。ケビンとカトレアは心配そうな、そしてわずかに失望したような顔色。


「少し探してくる」


 ケビンがそう言ってギルドを出て行く。それでも、イリスは動かない。

 感覚を広げる。いつでも、いつでも感じられるように。




 どれほど時間が経っただろうか。悪態をつきながらケビンが戻ってきたのと同時に、


 ――きたっ!


 フィアの気配が戻ってきた。勢いよく立ち上がり、扉へと走る。


「な!? お、おい、イリス!?」


 ケビンの言葉を背後に聞きながら、イリスは気配の場所へと走って行った。




 イリスがたどり着いたのは、外れにある古い大きな建物だ。だが手入れはしっかりとされていて、人が住んでいることが分かる。フィアの気配はここからしている。


 ――イリス。

 ――うん。


 扉には鍵がかかっているが、そんなものイリスには関係がない。蹴破ろうとして。

 会話が、聞こえた。


「手こずらせやがって。あとでポーションで治せば良い。天族の羽は金になる。さっさとむしれ」

「へい」

 ――……っ!


 ハルカが言葉を詰まらせる。イリスは顔面を蒼白にさせ、すぐに扉を蹴破った。

 そしてそれを見た。部屋の奥の、それを。



 散乱する家具と、床に散らばる、淡い金色の羽。

 そして暴れた後なのか、組み敷かれるフィアと、その翼を掴み、今まさに羽をひきちぎった男たち。

 そして、フィアの、悲鳴。



 ぷち、と。何かがイリスの頭の中で切れた音がして、


 ――イリス!


 誰かがイリスを止めるように、悲鳴のような声を上げた。


壁|w・)ちなみに、アジトの見張りさんはフィアが予想以上に暴れたため取り押さえる役目になっています。

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