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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第三話 異界:初めての街と冒険者
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11

 自室で待っていると、外が騒がしくなってきた頃にケイティとクレイが訪ねてきた。これからついに、冒険者ギルドというところに行くことになる。ハルカお待ちかねの施設だ。ギルドという言葉を聞いてから、ずっとハルカは冒険者ギルドに行こうと言い続けている。


 ――ふぁんたじーの定番! おやくそく! わくわく!


 おやくそく、というのは分からないが、ハルカが楽しそうなので気にしないことにする。

 宿を出て、街の中心部へ。この街の中心には豪邸があり、そこにこの街の領主が住んでそうだ。辺境泊という貴族らしい。関わることはまずないだろう、とのことだった。


「まあでも、関わることになっても、心配いらんで。辺境泊様はあたしら平民に理解ある人やからな。多少の無礼は笑って許してくれる。まあ、度が過ぎたらわからんけど」

「普通に話すだけなら心配ないから、気にしなくていいよ」


 ケイティの説明にクレイが補足してくれる。元々イリスには貴族というものがよく分からないのだが、とりあえずあまり気にしなくても良さそうだ。

 辺境泊の屋敷の周辺に様々な施設が並んでいる。そのうちのいくつかがギルド関係だそうだ。


「ところでイリス。冒険者ギルドでいいんか?」

「え? 他にもあるの?」

「商会ギルドや魔法ギルドとか、いろいろあるけど……。知らんの?」


 イリスが頷くと、ケイティは呆れたようにため息をついた。冒険者ギルドにつくまでに、簡単に説明してくれることになった。

 ギルドとは、言うなれば互助組織のようなものらしい。商いをするなら、商会ギルドに加入しておけば店舗の候補や仕入れ先を探すのを協力してくれる。魔法ギルドなら魔法に関わる仕事の斡旋の他、最新の研究成果を見ることができたり、逆に研究成果を公表する場を得られる。

 無論入会も継続もいくらかの金が要求されるが、それでもそれさえ支払えば、金額以上の見返りがあるそうだ。


「で、冒険者ギルドっていうのは、いわゆる何でも屋やな。魔獣の討伐や調査が多いけど、依頼されれば街の中で物の運搬や道具の修理をすることもある。だからまあ、一先ず冒険者ギルドに登録するってのはええけど、何か目的がはっきりしててそのギルドがあるなら、そっちの方がええで」

「んー……。冒険者ギルドでいいよ。まだはっきりと決めてるわけじゃないし」


 そうか、と頷いた。残念や、と。


「商人になるんやったら、あたしが一から教えてあげてもよかったんやけどな」

「あはは。また次の機会にお願いします」


 イリスがそう言うと、ないやろ、笑われてしまった。

 そうして話している間に、一行はある建物の前までたどり着いた。立て看板に冒険者ギルドと書かれた建物だ。周辺の他の建物と同じように三階建てで、一階からは人の騒ぐ声が聞こえてくる。ケイティに聞くと、一階は酒場も併設されているらしい。


「それじゃああたしは商会ギルドに行くけど……。あとは大丈夫か?」

「うん。任せてよ」


 ケイティはまだ心配そうにちらちらとイリスを見ていたが、クレイに促されて結局その場を後にした。ここからば別行動だ。冒険者ギルドには一人で入ることになる。

 そう思うと、緊張してきた。どうしよう、すごく帰りたい。


 ――がんばれイリス! ほらほら、フィアも待ってるよ!


 そう言えばフィアが静かだ。振り返ると、フィアはイリスの服をきゅっと掴み、表情を強張らせていた。どうやらイリス以上に緊張しているらしい。

 この中には、人間が大勢いる。確かに街の中でも大勢の人がいるが、ここにいるのは怖い人たちばかりかもしれない。


「行くよ」


 イリスがフィアへと言うと、フィアは小さく頷いた。




 冒険者ギルドは奥にカウンターがあり、職員らしき人が働いていた。カウンターには誰かが来るのを待っているのか、三人ほど座っている。カウンターの手前は丸テーブルがいくつも並び、大勢の男女が何かを飲んでいた。

 日本でもかいだことのある、アルコールの臭いだ。酒を飲んでいるらしい。

 部屋の左奥には掲示板が三つ並び、小さな紙がいくつも貼られている。何が書いてあるのか興味を覚えるが、それは後回しだ。


 カウンターの右側は、どうやら隣の建物と繋がっているらしく、少しだけ床の色が違う部分があった。その向こう側は飲食店になっているようだ。ケイティの話からすると、あれが酒場かもしれない。興味があるのであとで見てみよう。美味しいもの、あるかな。

 イリスが一歩を踏み出すと、テーブルにいた冒険者が一斉にこちらを見た。その中の一人、大柄な男が立ち上がり、イリスの方へと向かってくる。フィアが体を竦めてイリスの陰に隠れた。


 ――わくわく。


 ハルカが何かを期待しているが、イリスには分からない。

 やがて男がイリスの前で立ち止まる。見た目だけで威圧感のある男だ。筋骨隆々、巨大な剣を背中に背負っている。男はイリスへと、にっこりと笑った。


「おう、いらっしゃい。依頼かな?」

 ――いい人かい!


 何故かハルカがつっこんでいる。意味が分からない。


 ――いや待て、まだこれからだ!

「依頼じゃないよ。登録をしに来たの」

「ほう! 登録! ということは後輩になるのか。よし何でも聞いてくれ。俺が何でも教えてあげよう!」

 ――ちくしょうやっぱりいい人だ!


 いい人ならいいことじゃないか。さっきからハルカは何を待っているのだろうか。本当に意味が分からない。もしかして頭が残念になってしまったのだろうか?


 ――イリス、ひどくない?

 ――そう思うなら自重してよ。

 ――あ、はい。すみません。


 まったく、と内心で呆れながら、イリスは口を開こうとしたところで。

 男の隣に黒いローブの女が立った。ローブからでも分かる体つきだ。なんかすごい。胸のあれは邪魔ではなかろうか。

 なんだかハルカの機嫌が悪くなっている。どうしたのかな。


「ふうん……。登録、なんだ? 武器、ないけど。魔法士?」


 なんだか独特なしゃべり方だ。普段は無口なのに無理矢理話しているような、そんな印象を受ける。そう感じたのは正しかったらしく、男の方は苦笑すると女の頭を撫でた。


「人見知りするんだから無理すんな。戻ってな」

「だって、魔法士の、後輩よ? 仲良くしないと」

「あとでな。ほら、嬢ちゃん。登録ならこっちだ」


 男に案内されて、イリスは向かって右端の受付へと向かう。そこにいたのは、強面の初老の男だ。登録だ、と男が言うと、受付はイリスをじろじろと見て、次に何故か黒いローブの女を見て、またイリスを見て。


「貧相だな」


 ぼそりと。つぶやいた。


 ――イリス。こいつ殺そう。

 ――ハルカ!? 何言ってるの!?

 ――大丈夫。私が許す。殺せ。できるだけむごたらしく。ぶち殺せ。

 ――落ち着いてハルカ! 怖いから! ね? ほら、良い子だから、ね?

 ――だれが貧相だクソジジイ! まだ成長期だばかたれー!


 聞くに堪えない罵詈雑言をハルカが叫んでいる。受付の先の発言に怒っているのは分かるのだが、原因の方が分からない。ただ、このままだと引き下がらないのは分かる。

 とりあえず、少し脅してみよう。

 そう考えたイリスは、ちょっとだけ、ちょっとだけ殺気を受付にぶつけてみた。


「……っ!」


 先ほどまで騒がしかった室内が、途端に静かになった。受付が蒼白になったまま、口をぱくぱくとさせている。それでは何も聞こえない。イリスは薄く笑顔を浮かべて、


「ちょっと気分が悪いかな?」

「…………。すまない。悪かった。この通りだ」


 受付が深く頭を下げる。どうやら反省はしてくれたらしい。これで満足だろうか。


 ――むう……。まあ、もういいよ……。


 とりあえずハルカは納得してくれたらしい。まだどこか不満そうだったが、さすがにハルカも本当に殺そうとは思っていないはずだ。多分。


 ――ふんだ。私だって生きてたらもっと成長したもん。したはずだもん。くすん。

 ――えっと、何のことか分からないけど、ハルカは立派だよ。うん。ハルカはすごい。私はそう思ってるよ?

 ――ねえそれ成長の余地がないって言いたいの?


 慰め方を間違えたらしい。どう言えば良かったのだろうか。イリスが困惑していると、ハルカは小さく噴き出して、


 ――うん。気にしなくていいよ。ありがとイリス。イリスはいい子だなあ……。

 ――えっと、私の方が間違い無く年上なんだけど……。

 ――気分の問題。イリスは良い子。

 ――えっと……。うん。ありがとう?


 とりあえず流しておこう。ハルカの機嫌が直ったので良しとしておく。


壁|w・)おやくそくは犠牲になったのだ。


地雷を踏み抜く受付クォリティ。

本人もまさか聞こえているとは思っていなかったでしょう。

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