05
ちなみに、フィアも暗い場所が見えるようになってきているらしい。治癒魔法もそうだが、少しずつドラゴンの眷属らしくなってきている。イリスとしては複雑だが、フィアが無邪気に喜んでいるので何も言わないでいる。
――今はまだ大丈夫みたいだけど、ちゃんと支えてあげないとだめだよ。
――うん。分かってる。
ハルカとそんな会話をしながらしばらく歩くと、すぐにクイナの家にたどり着いた。扉を軽く叩くと、すぐにクイナが出てきた。
「いらっしゃい。ほら、入りな」
クイナに促されてフィアと共に家の中へ。相変わらず床に武器の類いが散乱している。イリスが呆れていると、クイナはすぐにそれらを樽へと放り投げていった。もう少し丁寧に扱うべきだと思う。
「それで、イリス。用事はなんだい?」
いすに腰掛けながらクイナが問うてくる。イリスとフィアも座ってから、
「うん。クイナは魔石って知ってる? 魔力を貯めておけるようなもの」
「ああ。もちろんだよ。なんだい? しばらく採掘を控えろってことかい?」
「はい?」
「ん?」
意味が分からずにイリスが首を傾げ、それを見たクイナは眉をひそめる。何かが噛み合っていない。クイナも同じように感じたらしく、しばらく眉を寄せていたが、やがてまさか、と一瞬だけ目を見開き、そして何故か剣呑に目を細めた。
「イリス。あんた、魔石がどこで取れるか、知らないわけじゃないだろうね?」
「え? えっと……」
知らない。だが何故か、言ってしまうと怒られる気がする。イリスが目を逸らすと、クイナが大きなため息をついた。黙り込んでしまったクイナの代わりに、フィアが言う。
「あのね、お姉ちゃん。魔石はお姉ちゃんが住んでる山の洞窟で取れるんだよ」
「え……。本当に?」
「そうだよ。むしろあの山そのものが巨大な魔石だ」
クイナ曰く、魔石とは大きな魔力を浴び続けた石が変質したものらしい。ただの石が魔力を浴び続けることによって、次第に魔力を貯める性質を持ち始めるそうだ。実際のところは他にも何かしらの条件があるらしいが、そこまで詳しくは分かっていない。大前提として、魔力を浴び続けることが分かっているだけだ。
「で、あんたが住んでる洞窟だけど、とても長い期間、ある存在が居座っていてね」
「あー……」
そこまで言われれば、さすがにイリスも分かる。
イリスが住んでいる果て無き山の洞窟は、ずっとドラゴンが暮らし続けている。当然ながらあの洞窟にはドラゴンの魔力が充満している。最初からこの地に住んでいる者は慣れきっているために分からないが、外から来たディアボロなどはすぐに分かるほどだという。
他の条件というのは分からないが、それだけドラゴンの魔力を浴び続けているのだから、洞窟内の石が魔石に変じていてもおかしくはないだろう。
――まさに灯台下暗し。
――全然気が付かなかった……。
クイナも呆れるわけだ。イリスも少し自己嫌悪してしまう。
「イリスもドラゴンなんだから知ってると思ってたけどね。昔、村の人がドラゴンから直接、毎年一定量だけ採掘する許可をもらったらしいから」
「何それ聞いてない」
これは父にも責任があるのではないだろうか。報告は大事だと思う。
――まあ確かにそうだけど、お父さんは教える必要もないと思ったんじゃない? だってイリス、冷蔵庫がなければ魔石が欲しいとは思わなかったでしょ。
――それはそうだけど……。
――でもまあ、村と交流があるわけだから、それを知った時に教えろとは思うけど。
――だよね。
父は少しいい加減すぎだと思う。いや、イリスも人のこと言えないのかもしれないが。
――この親にしてこの子あり。
――ハルカ? 何が言った?
――いえ何も言ってません!
まったく、とイリスが鼻を鳴らすと、フィアが怪訝そうに首を傾げた。
「お姉ちゃん、どうかしたの? なんだか怖い顔してるよ」
「え? ああ、大丈夫。何でも無いよ。ただ、お父さんも教えてくれたら良かったのに、と思っただけ」
「イリスの父親か。どんなドラゴンなんだい?」
クイナが興味を示して聞いてくる。イリスは肩をすくめて、
「大きなドラゴンだよ。一番大きなドラゴンで、私たちドラゴンの王様」
「はあ!?」
突然クイナが素っ頓狂な声を上げた。思わずイリスが驚いて動きを止めて、フィアも目をまん丸にしている。ただフィアはクイナの声に驚いたというわけではなく、イリスの言葉の方に驚いているらしかった。
クイナが、少し硬い笑顔で聞いてくる。
「ドラゴンの王様って……。龍王レジェディアかい?」
「あ、知ってるんだ。お父さんは有名なんだね」
「有名なんてものじゃないよ。お伽噺に出てくる伝説のドラゴンだよ。まさかそんな伝説上のドラゴンの娘だなんて思わなかった……」
「私は偉いんだぞー。えっへん」
「…………。威厳はないね」
「むう」
イリスが頬を膨らませ、クイナは苦笑して肩をすくめる。父のことを知るととても驚いていたようだったが、妙に関係が変わるようなことはなさそうで、内心で安堵する。まさかここまでの反応を示されるとは思っていなかった。
「じゃあ、お姉ちゃんはドラゴンのお姫様なの?」
フィアが瞳を輝かせて聞いてくる。お姫様と言われると何となく誤解を招きそうだが、間違ってはいない。かといって認めると本当にそのまま誤解されそうだ。少し考えて、イリスは口を開いた。
「お姫様と言えばお姫様だけど、人間のそれとはまた違うと思うよ。私も普段はのんびりお昼寝してたぐらいだし」
「へえ……!」
あ、誤解されてる。直感的にそう悟ったが、訂正は難しそうなので諦めた。いずれ一緒に浮島に行けば誤解も解けるだろう。
――とにかく魔石の問題は解決だね。
――うん。山そのものが魔石みたいなものなら、直接魔力を吸い出す魔方陣を作れば動きそう。どんな魔方陣にしようかな。ちゃんと変換の効率も考えないと……。
――いやイリス。帰ってから考えようね。出発まで三日もあるんだから。
はーい、と心の中で返事をしつつ、しかし頭の中では魔方陣の案がいくつも出てきている。それを分かっているのだろう、ハルカが呆れたようなため息をついているが、気にしないことにする。
「魔石のことを聞いてくるってことは、使うってことだね? 何に使うんだい?」
「ちょっとねー。安定して使えるようになったら見せてあげる」
「まあ期待して待ってるよ」
イリスが答えないのが分かったのだろう、クイナは肩をすくめただけだった。
クイナの家で大きな肉を丸焼きにした豪快なご飯を食べた後、イリスは山の洞窟に戻ってきた。何故かフィアも一緒だ。ついて行くと譲らなかった上に、両親が了承してしまった。仕方なくこうして一緒に戻ってきた。
「何もないね」
「まあいつも寝るだけだからね」
村か日本に行けばいいだけだと思っているので、イリスはここの利便性を考えていない。だが日本であるものの気持ちよさを学んできたので、いつか用意したいとは思っている。
「お布団はふかふかで気持ちよかったなあ……」
あの柔らかいお布団に入って眠る心地は最高だ。朝になっても布団から出たくないほどに。ちなみに望に布団の中でごろごろしているのを見られて、かなり本気で呆れられた。布団が気持ちいいのが悪い。私は悪くない。
――どう考えてもイリスが悪いけどね。まあ、その気持ちは分かるけど。
――むう。
――あと、どうせならもう少しここにも色々と用意しようよ。いずれはフィアがここで暮らすんだよね?
壁|w・)ちなみに果て無き山産の魔石は商人さんが少しだけ買い取っています。
イリスの欲しい物
・美味しい食べ物
・おふとん←NEW!!
ハルカ「ドラゴンって……」