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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第三話 異界:初めての街と冒険者
32/98

02

「へえ、行商人」


 イリスの瞳が輝く。行商人、つまりは村の外から来たということだろう。是非とも、その商人から話を聞いてみた。


「私も会いたい」


 イリスが短くそう言うと、フィアはだよね、と肩を落とした。きっとこうなることが分かっていたからこそ、大人の誰かから口止めされていたのだろう。


「ちょっと聞いてくるね」


 フィアはそう言うと、村の中へと走って行った。


 ――ハルカ。行商人だって。

 ――うん。いいタイミングで帰ってきたね。魔石についても知ってるんじゃない?

 ――あ、そうかも! 聞いてみようかな?


 行商人ならきっと色々なことに詳しいだろう。今から話すのがとても楽しみだ。

 北門でしばらく待っていると、フィアが一人の男と共に戻ってきた。その男はこの村の薬屋の男だ。イリスとも交流がある。


「イリスお姉ちゃん、お願いしても、いい?」

「何を?」

「ドラゴンであることは秘密にしてほしくて。薬屋さんから、最近村に来た治癒士だって紹介してもらう形にしたいんだけど、大丈夫かな?」

「別にいいけど……。村長から?」

「うん。言われて」


 イリスとしては会って話ができればいいので、問題はない。頷くと、フィアと薬屋が安堵したようにため息をついた。そこまで不安にならなくてもいいだろうに。

 その後は薬屋と共に村の中に入っていく。

 村の中はとても静かだ。子供たちが遊んでいる声は聞こえてくるが、大人たちの声は聞こえない。どうやら全員、行商人のもとへと集まっているらしい。

 広場に近づくと、大きな女の声が聞こえてきた。


「ほらほら、もっと見てってや! これなんかおすすめやで!」

 ――なんで関西弁。


 ハルカが笑っている。関西弁というのは、確か日本の方言とかいうものだったはずだ。どうやらハルカにはそう聞こえているらしい。


 ――イリスは違うの?

 ――ちょっと独特なしゃべり方だけど、それだけだよ。

 ――そうなんだ。その独特が私には関西弁に変換されてるってことかな。関西弁なのは行商人っていう先入観かな……?


 その辺りのことはイリスには詳しくは分からない。ともかく、広場の奥へと向かう。

 そこには大きな馬車が三台並び、そのうちの一つの側で若い女が何かを片手に大声で叫んでいた。どうやらあの何かを紹介しているらしい。その女の側には、全身鎧の男が一人。兜から見える瞳が鋭く周囲を監視している。護衛だろうか。

 その視線が、イリスを捉えた。男が一瞬だけ動きを止めた。じっとこちらを見つめてくる。イリスが小さく手を振ると、男はそっと目を逸らした。


「イリス。あの商人に紹介する前に、一つだけ言っておきたいんだが」


 薬屋がイリスへと言う。


「ここを出る前に俺に渡したポーションがあるだろ?」


 ポーション。日本に行く前に薬屋に渡しておいたものだ。イリスが離れている間、治癒が必要な人がいれば使ってあげてほしい、と。それがどうしたのだろうか。


「うん。あ、売るの? 別にいいよ?」

「違うし、売るなよ? 絶対に売るなよ?」


 薬屋の態度にイリスは首を傾げてしまう。多少なりともお金にはできると思うのだが。二束三文だろうが、あの量があればそれなりのお金になるはずだ。外で食べ物を買うお金にできると思っていたのだが。


「気づいてないみたいだが、あのポーションの効果は俺たち人間の間では飛び抜けてる。あれだけで一財産だし、売ればかなりの騒ぎになる。出所を探られるぞ」

「なんで!? ただのポーションだよ?」

「うん。まずポーションが貴重品だからな? ただの、じゃないからな?」

「ええ!?」


 水に治癒魔法をかけて効果を持たせた、ただそれだけのものだというのに。それが貴重品だとは全く思ってもみなかった。ともかく、薬屋の話ではポーションのことには触れない方がよさそうだ。


 ――つまりかなり厄介なものを押しつけてたってことだね。

 ――ああ……。そうなるんだね……。謝らないと。


 イリスにとってはただの良い水程度のものでも、村の人からすれば貴重品を大量に押しつけられた形だ。とても戸惑ったことだろう。


「その、ごめんなさい。そんな物押しつけて……」


 イリスの謝罪に、けれど薬屋は笑っただけだった。


「気にしなくていいさ。助かっていたのは事実だから、良ければこのまま使わせてほしい。もちろん、内緒にするよ」

「うん。いいよ。足りなくなったらいつでも言って。あんなもの、片手間に作れるから」

「お、おう……」


 何故か薬屋の頬が引きつったような気がする。意味が分からない。

 話している間に、商人の方も落ち着いてきたようだ。そろそろ行くぞ、と薬屋に促されて、イリスは彼の後をついて行く。

 商人は自分の元にやってくる薬屋に気が付くと、笑顔を浮かべた。


「これはこれは! 毎度どうも! なんか買ってってくれるんか?」

「いや、今日は別件だよ。最近この村に来た子を紹介したくてな」

「は? そんな子がおるん? もしかして、その子か?」

「ああ。治癒士のイリスだ。薬草とかをよく持ち込んでくれる」

「なんと! 治癒士!」


 商人の顔が輝く。その笑顔がイリスへと向けられて、思わず体を仰け反らせた。なんだろう、悪い人ではないようだが、何となく警戒してしまう。


「珍しいなあ、治癒士やなんて。ああ、でも、適正があるだけやったら、探せば見つかる、かな……?」


 言いながら、自分の言葉に自信がなくなってきたらしい。商人はどうやったかな、と思い出そうとしている。薬屋は苦笑しながら、いやいやと首を振った。


「国に抱えられていないのが不思議なぐらいの、すごい治癒士だよ」

「ほうほう。ポーションが作れたりか? はは、まさかそんなわけ……」

「おう。これだ」

「あるんか!?」


 驚いた声を上げて薬屋が取り出したコップを奪い取る商人。驚いたのはイリスもだ。秘密にしておいた方がいい、という話だったのに。だがよくよく見てみれば、あのポーション、魔力がかなり薄まっている。どうやら大量の水を混ぜて希釈して、効果を弱めておいたらしい。


「ちなみに百倍だ。それだけ水を混ぜて、ようやく一般的なポーションだ」


 薬屋が小声で教えてくれる。まさかそこまで薄めないといけないとは思わなかった。ちなみに十倍程度で最高級のポーションだそうだ。


「ほうほう……。あたしやと効果が分からんなあ……。なあ、これは売ってくれるんか?」

「それは俺が買い取ったものだから、いいぞ。それ以上ならこの子と直接交渉してほしい」

「了解や! じゃあちょっと待っててな。クレイ。ちょっと使え」


 商人が隣の男に言う。クレイと呼ばれた男がフルフェイスの兜を外す。黒髪で顔に不思議な模様があり、小さな角らしきものがある。どうやら魔族らしい。商人が人族なのでこちらも人族だと思っていた。


「ほい。ぐぐっと」

「うん」


 クレイが頷く。意外と中性的な声だった。クレイは商人からコップを受け取ると、中の水を一気に飲み干した。


「どや?」

「んー……。わ、すごい。細かい傷が治ってる。間違い無くポーションだよ。質としては可も無く不可も無くってところだね。貴族連中は相手にしないけど、庶民なら喜んで買うよ」

「ほほう。ええな。庶民向けってところがええわ。治癒士さん、ちょっと商談どうや?」


 瞳を輝かせてイリスに聞いてくる。商人の目がお金に見えるのは気のせいだろうか。イリスが頷くと、商人は手を叩いて喜んだ。


「よっしゃ、決まりや! じゃあ村長の家に行こか。あたしら今日はそこで泊めてもらう予定やねん。クレイ、店番頼むで」

「うん。分かった」


壁|w・)関西弁っていざ書こうとすると難しいですね。

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