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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第二話 現代:オムライス ~思い出の味~
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閑話

健一のクラスメイト視点です。

 私の通う学校の側には、少し大きな神社があります。私のクラスメイトの健一君のお父さんが神主さんの神社です。そこの神社の人たちはとても優しい人たちばかりで、子供が行くとよくお菓子をくれます。ちなみに今週は羊羹の週だそうで、羊羹をご馳走になりました。

 二年ほど前、神主になる気が毛頭ないらしい健一君の代わりに、新しい神主さん候補が来ました。健一君はその人のことをおっちゃんと呼んでいますが、話を聞くと従兄弟の関係だそうです。それなのにおっちゃん呼びなのはさすがに失礼だと思うのですが、その新しい神主さん候補、望さんは笑っているだけでした。……たまにため息ついてましたけど。


 その神社ですが、最近新しい巫女さんが増えました。白い髪に何故か赤いマフラーを手放さない巫女さんで、いつも神社の敷地を掃除しています。何故か必ず掃除しています。健一君のお母さんは、絵になるから、と笑っていました。

 のんびりと、竹箒を手に掃除をしている白髪の巫女さん。……うん。気持ちはよく分かります。写真を撮らせてもらいました。

 普段は落ち着いた様子でのんびり掃除をしているのですが、話してみるととても気さくな人だというのが分かります。今日も健一君と一緒に神社に行くと、


「あ、おかえり、健一。かなちゃんも」

「はい。ただいま戻りました、イリス様」

「いや様付けやめてってば。……まあ、前よりはましだけど」


 健一君にイリス様と呼ばれた巫女さんは苦笑しています。

 健一君は何故かイリスさんのことを、イリス様と呼びます。曰く、神様だからだとか。どういうことか聞いてみても、神様だから、という一点張り。仕方なく望さんに話を聞いてみると、衝撃的な出会いだったんだよ、と遠い目をしていました。何があったの?

 イリスさんは話しかけると、興味深そうにこちらの話を聞いてくれます。学校の話が珍しいようです。イリスさんの学校の話を聞こうとすると、いつもはぐらかされますが。外国の学校に興味があるのですが。


 そう思っていたのですが、どうやらイリスさんは日本人のようです。親の遺伝のようなうんぬんかんぬんでこの髪の色、と言っていました。うんぬんかんぬんの部分が気になります。

 最近は毎日のように神社に通って、イリスさんといろいろお話をします。どんな話でも真剣に聞いてくれるので、とても楽しいです。


 さて、私の目的は、実はイリスさんではありません。いえ、イリスさんもあるのですが、本来の目的はまた別なのです。

 つい先日、怪獣が現れました。正気を疑われそうですが、正真正銘の怪獣が現れたんです。神社の上空に突然大きな怪獣が、ドラゴンが現れました。そのドラゴンは神社の敷地に一度下りると、そのままどこかへと飛び去っていきました。

 夢のような光景でしたが、反射的に撮ってしまった写真にはしっかりとそのドラゴンが映っていました。白銀の綺麗なドラゴンです。写真でも、思わずため息が出てしまうほどに幻想的な光景でした。


 神社の人に話を聞いてみても、遠くの病院の場所を聞かれただけだ、と言われます。どこか体調でも悪かったのでしょうか。……ドラゴンが人間の病院に行っても診察してもらえないと思うのですが。どちらかと言えば動物病院? 失礼、でしょうか。

 そのドラゴンは当然のように私以外にも目撃されて、撮られていて、そして他の場所でも確認されていました。夜にはなんとテレビのニュースにも出ていたり、翌日の新聞では一面を飾っていたりとすごい話題になっていました。


 ただの投稿とかだったら、きっといたずらとかで処理されていたでしょう。ですがこのドラゴン、とんでもないものに映っていました。

 生放送のバラエティ番組に、その姿がしっかりと映っていたんです。

 どこかの街中の、商店街を見て回るという内容の番組です。その番組中に、少し遠くではありますが、しっかりとドラゴンが映りました。滞空して何かを探している様子で、リポーターさんたちも大騒ぎです。

 その後のニュースや新聞でも度々取り上げられていましたが、結局のところは正体不明ということになりました。


 この神社も最初にドラゴンが目撃された場所として多くの取材があったり、現地見たさの大勢の人が詰めかけたりといったこともありましたが、あれから二週間が経ち、今は概ね落ち着いています。

 ただその後は、何故かイリスさんのことが広まっていました。

 ドラゴンが目撃された神社にアニメのような巫女がいる、と。

 今ではイリスさんの写真が出回り、さらにはインターネット上では非公式のファンクラブができていたりとちょっとしたお祭りです。今日も、イリスさん目的の観光客さんが来ています。イリスさんと一緒に写真を撮って、ご満悦です。


 イリスさんは警戒心がなさすぎると言うか、何というか、写真を撮られてインターネット上に投稿されても、特に気にする様子はありません。むしろいたずらっぽく笑って、かわいく撮ってね、なんて言っています。警戒心なさ過ぎでしょう。ネットなめてるんですかこの人は。

 まあ、私も一緒に写真を撮らせてもらいましたけど。健一君は、特別にただでいいよ、と言っていました。どういうことでしょうか。


「かなちゃん、今日はお煎餅だって。食べる?」


 夕方。休憩所で健一君と一緒に宿題をしていたら、イリスさんに話しかけられました。そして私が返事をするよりも早く、


「すぐにご用意します!」


 健一君が素早く動きます。冷蔵庫から麦茶を用意して、煎餅を準備して、あっという間に目の前にお菓子が並びました。茶色いお煎餅です。

 イリスさんは食べることが大好きなようで、お菓子を前にすると嬉しそうに食べ始めます。とても幸せそうな顔で食べます。見知らぬ人がいる時は食べないので、この笑顔を見られるのは私たちだけの特権です。


「ドラゴンの騒ぎも、イリスさんの騒ぎも落ち着いてきたね」


 私がそう声をかけると、イリスさんが咳き込みました。どうしたんでしょうか。

 健一君がイリスさんをちらりと一瞥して言います。


「まあ新しい情報がない以上、ドラゴンの騒ぎはすぐに沈静化するとは思ってたけどね。最近ではテレビ局のねつ造じゃないかとまで言われてるし。イリス様の方は……、未だに人が来るけど」

「人気者だよねえ。そう言えばイリスさん、ネット上でファンクラブとかできていましたよ」

「んー? なにそれ」


 警戒心があまりないと思っていたイリスさんですが、どうやらインターネットという概念がいまいち分からないそうです。自称日本人とは思えません。日本で生まれ育ったのなら、関わらないはずがないと思うのですけど。


「まあ私としては夜に押しかけてこなければ何でもいいよー」


 ぽりぽり煎餅をかじりながらイリスさんが言います。

 以前夜遅くまでイリスさん目当ての人が来た時には、さすがのイリスさんも怒ったそうです。ネット上では、死ぬかと思った、とまで言われています。それ以来、イリスさんに会うのは夕方五時までと決められて、この五時以降はぱったりと人が途絶えます。それでもたまに誰かが来て、イリスさんに追い返されていますが。


「ごちそうさま。さて、それじゃあもう少し掃除してくるね」


 イリスさんが軽く手を振って休憩所を出て行きます。鼻歌を歌いながら、機嫌良さそうに。


「イリスさん、やっぱりいいなあ……」


 普段は落ち着いた様子で幻想的で、でも話してみるといつも優しくて、憧れます。こんなお姉ちゃんが欲しいと思ってしまいます。


「まああと一週間ほどで帰っちゃうけど」


 え? ちょっと待って。何それ聞いてない。


「どういうこと?」

「一ヶ月の契約なんだ。あと一週間と少しで契約が切れる。その後はまたどこか別の場所に行くってさ」


 ちょっと待って嘘だ信じたくない。


「…………。それ、他の人には?」

「言ってないな。ああ、ファンクラブには言っておいてよ。頼むぜ、会員番号三番さん」


 笑いながら健一君が出て行きます。私は呆然とその姿を見送って。

 外から健一君の声が響きました。


「あ、そこの人! イリス様の写真は一枚五百円だよ!」


 そう言えばお金とってたね……。




 その後。

 ファンクラブでイリスさんがもう少しでいなくなるらしいという話をしたところ、阿鼻叫喚の騒ぎになりました。しばらくはまた忙しくなりそうですが、頑張ってください。……私も行こうっと。

壁|w・)無自覚にやらかす、それがうちの子。

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