08
いくつか階段を下りて、大きく七の数字が書かれた階に出る。白い廊下が真っ直ぐに延びていた。両隣の壁には等間隔に扉が並んでいる。扉の横には病室の番号と名前らしきものが書かれていた。番号を順番に見て、目的の病室を探す。
「多分こっちだ」
途中で望に指示されて角を曲がる。すぐに七三五号室が見つかった。中から誰かが話す声が聞こえてくる。そっと扉を開けて、中に入る。どうやら個室のようで、狭い部屋にはベッドが一つしかなく、そのベッドに一人の女が横になっていた。
――お母さん……。
どうやらこの人がハルカのお母さんらしい。確かによく見てみれば、どことなくハルカの面影があるような気がする。
ベッドの横には四人の人間。白い服を着た男女と、スーツというらしい服を着た男と女。スーツの女が一番若く見える。
不意に肩が叩かれた。振り返ると、望が泣きそうな表情でベッドを見ている。イリスへと視線を向けると、自分のことを指差して、次に扉の方へと指差す。どうやら外に出ていると伝えたいらしい。イリスが頷くと、望は静かに退室していった。
白い服の男女が退室していく。どうやら話は終わったらしい。
「響子。面接はいいのか?」
スーツの男がそう言うと、女は呆れたような目を向けた。
「こんなお母さんを置いて面接に行くほど、薄情じゃないわよ」
「そうか……」
「うん……」
それきり、二人とも黙り込む。
――知ってる人?
――うん……。男の人は、お父さんだね……。女の子の方は、私の妹の響子。もうすっかり大きくなっちゃってるけど。あれから十年だとすると、大学生で就職活動でもしてるのかな……。
寂しげなハルカの声に、イリスは何も言えなかった。やはり、思うところがあるのだろう。だが今は感傷に浸っている場合ではないはずだ。
――そうだね……。ごめん。
――あとで、何か考えるよ。
――え?
不思議そうなハルカに笑いながら、イリスはベッドを見る。どのような事故だったのかは分からないが、包帯だらけで見ているだけでも痛々しい。赤の他人であるはずのイリスも、見ていて少し辛い。もしかすると、ハルカの感情に影響を受けているだけかもしれないが。
――それじゃあ、さくっと。
いつものように治癒をかける。フィアの時の経験を活かし、部分ごとに治癒をかけていく。フィアの時はついつい彼女の全身に思い切り治癒をかけてしまったが、こうして悪いところだけを少しずつ治していくだけなら、眷属にはならないだろう。
内臓含め、必要な治癒を終えたところで一息ついた。父と妹の方を見てみるが、こちらには気づいていないようだ。きっと、驚くことだろう。
それにしても危なかった。もう少し多く治癒をしていたら眷属になっていたと思う。細かい部分は残ってしまったが、あとは自然治癒に任せても大丈夫だろう。
――ありがとう、イリス。ごめんね、無理言っちゃって……。
ハルカの小さな声に、イリスは頬を緩める。それが聞けただけで満足だ。
満足だが、まだ終わっていない。
――え?
いたずらっぽく笑いながら、イリスはそっとその部屋を後にした。
「というわけで、望。屋上で一晩待機」
「どういうわけだ」
病室を出て屋上に戻ってきた二人は、屋上の隅で話をしていた。魔法で無事に治したことを伝えると、望は安心したようだ。深く気にすることはやめたらしい。ただ、戻ったらちゃんと説明してもらう、とは釘を刺されているが。
「ちゃんと迎えに来てあげるから。ね?」
「はあ……。分かったよ……」
イリスが譲らないことを悟ったのだろう、望はため息をついて頷いた。迷惑をかけてしまう自覚はあるが、どうしてもやりたいことがある。我慢してもらおう。
「まあのんびり寝ててよ」
「そうするよ……。誰にも見えないことだしな……」
「ご飯は一日ぐらい大丈夫だよね?」
「鬼か。いや、いいけどさ」
うん。かなり申し訳ないと思う。戻ってくる時に何か用意してあげよう。
「あ、あと。お金貸して」
屋上を去る前にそう言うと、望は頬を引きつらせながらも財布を取り出してくれた。
壁|w・)ごめんなさい、今日はとても短くなりました。
その代わりに明日は長めの投稿です。
今作で書きたかった部分で、どうしても途中で切りたくなかったのです。
よくある展開ですが、お付き合いいただけると嬉しいですよー。




