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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第二話 現代:オムライス ~思い出の味~
20/98

02

 補導、というのは分からないが、とにかく避けた方がいいというのは分かった。仕方なく、それじゃあ、とまた記憶を探る。ただ、この服以外だと頻繁に着ているというものがないようだ。


 ――面倒だからこれにしちゃえ。

 ――あ。


 イリスの体を光が包み、そして消えた。

 今のイリスの格好は、紺色のパーカーに黒いスカートとスニーカーというものになった。もちろん赤いマフラーもある。これはお気に入りなので外せない。


 ――なんという微妙なセンス。

 ――センス?

 ――うん。何でも無い。まあ、それならいいんじゃない?


 ハルカのお墨付きをもらったので、それじゃあ改めて、とイリスは黒い穴を見る。大きすぎるので小さくして、そして、


「では、今度こそ、しゅっぱつ!」


 意気揚々と、黒い穴に入っていった。




 黒い穴から出た先は、薄暗い部屋だった。木造の建物のようで、フィアたちの家の部屋よりも狭い。家具などは何もないが、イリスには用途の分からない道具が隅に片付けられていた。


 ――何の建物かな?

 ――さあ……。とりあえず外に出てみたら?


 ハルカに促されて、イリスは外に出ることにした。両開きの扉が一つだけある。イリスはそちらに向かうと、少しわくわくしながら扉を開けようとして。

 鍵がかかっているのか、開かなかった。


 ――むう……。どうしよう? 壊していい?

 ――やめなさい。魔法でどうにかならないの?

 ――ふむう……。


 扉に手をかざし、魔力を込める。どうやら鍵は単純な構造のようだ。魔力でむりやり動かすと、かちりと軽い音と何かが落ちる音がした。どうやら無事に開いたらしい。


 ――おお。さすがイリス。すごい!

 ――えっへん!

 ――ああもう、撫でたい!


 そんな言葉を交わしながら、扉を開ける。そして最初に見たものは、緑、つまりは木だ。どうやら林か森の中らしい。この建物に続く道、といっても獣道のようなものだったが、それはある。どうやらこの建物は林の中にぽつんと立っているらしい。

 さて、現実逃避はこれぐらいでいいだろう。

 開けてすぐの目の前に、少年が一人、呆然と立ち尽くしてこちらを見つめていた。つまりは、ここから出てくるところを見られた、ということだ。

 お互いに見つめ合うイリスと少年。そして、少年が言った。


「神様?」

「いや違うから」


 確かに信仰とかされていたりするが、これでもちゃんとしたドラゴンだ。


 ――ドラゴンであっても信仰されそうだけど。

 ――意味が分からない。


 イリスは戸惑う少年の前で建物から出る。階段のようなものがあり、それを下りる。階段といっても、三段だけだ。

 そして振り返って建物を見てみた。イリスにとっては初めて見る建物だが、ハルカには見覚えのあるものらしく、ああ、と納得の声を上げていた。


 ――社だね。神社の社。様子を見るに、一応の管理はされている程度みたいだけど。

 ――神社って?

 ――簡単に言ってしまえば、神様をまつってる。だからこの男の子は、社から出てきたイリスを神様だって言ったんだよ。


 なるほど、と頷いておく。もちろんあまり分かっていない。ハルカは苦笑して、気にしなくていいよ、と言ってくれた。

 とりあえずは先にこの少年への対応だろう。少年を見れば、じっとイリスのことを見つめていた。


「どうしたの?」


 笑顔を見せて、そう聞いてみる。すると少年は顔を真っ赤にして逃げてしまった。失礼な。


 ――人の顔を見て逃げるなんて、失礼な子だね。

 ――まああの子にとってはどう見ても不審者だしね。とりあえず、場所も知りたいし、この森? 林? から出ようよ。

 ――うん。


 頷きを一つ、イリスは道に沿って歩き始めた。

 予想通りと言うべきか、やはりここは林程度の広さだ。いや、林ほどもないかもしれない。歩いて一分もせずに外に出てしまった。


 ――ちっちゃい!

 ――あはは。校庭程度の広さかな?


 林から出た先は、石の道が真横に延びていた、ただ、石のように見えたが、何か違うようにも思う。


 ――アスファルト。日本はこんな道が多いよ。

 ――へえ……。日本ってすごい。よく分からないけど。

 ――分からないんだね。


 ハルカが苦笑しながら、イリスはのんびりと歩き始める。とりあえずは人を探してみようか。けれど飛んだ方が早いかもしれない。そう思って魔力を集めようとしたところで、


 ――だめだからね? この世界は魔法なんてないから、それっぽいこと、しちゃだめだよ?

 ――不便な世界だ!

 ――イリスが万能すぎるだけだと私は全力で突っ込みたい。


 仕方なく、また歩き始めることにする。一歩を踏み出そうとして、


「あ、いた! 待って!」


 呼び止める声。まさか自分ではないだろう。そう思いながらも、一応振り返ってみると、先ほどの少年がイリスへと走ってくるところだった。

 何か用だろうか。イリスは首を傾げながらも、少年が目の前に来るまで待った。

 少年は、見た目は十歳前後で、短い黒髪だ。手には大きな紙の束をまとめたものがある。


 ――スケッチブックだね。絵を描くための白紙の紙だよ。


 絵を描くのが好きだということだろうか。イリスはやったことがないので分からない。今度、やってみてもいいだろうか。


「あの! 神様! 待ってください!」

「神様じゃないってば」

「でも、中から出てきたし、中から鍵開けたし……」

「ちょっと中で休ませてもらっただけだよ。鍵は、えっと、軽く鍵開けみたいな……」

「南京錠を中からどうやって開けるんですか?」


 南京錠? イリスが首を傾げると、あー、とハルカが妙な間延び声を出した。


 ――やっちゃった……。

 ――なにを?

 ――南京錠ってね。扉に直接ついてる鍵じゃなくて、扉の外側に取り付けてる鍵なんだよ。つまりは中から手も出さずに開けるなんてほぼ不可能。

 ――なるほど、やっちゃったね!


 理解した、と頷いてから、その場で頭を抱えた。イリスでも分かる。取り返しがつかない、と。少年を見ると、きらきらとした瞳でイリスを見つめてくる。なぜか、フィアを思い出してしまった。

 イリスがどうしていいのか分からずに固まっていると、少年が言った。


「神様! 是非ともうちの神社にも来てください!」

「へ? いや、えっと……」

「こっちです!」

「わ、わ……! 分かった、行くから引っ張らないで!」


 少年がイリスの手を掴んで引っ張ってくる。フィアと違って、最初から押しの強い子だ。さすがにこんな子供の手を振り解くわけにもいかず、仕方なく少年について行くことにした。

 それに、うちの神社ということは、つまりは彼の家かもしれない。何か食べられるかもしれない。


 ――あまり期待しちゃだめだよ?

 ――うん。了解!


 機嫌良く笑いながら、心の中で元気よく返事をしておいた。


壁|w・)目の前で南京錠が勝手に落ちて、中から人がぬっと出てくる。

下手をするとトラウマになりそうですね!


次の更新は18日の午前6時予定です。

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