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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メシウマ男にご馳走を! ~ご注文は 他人の不幸 ですか??~

 メシウマ。

 それは『飯が美味い』の省略形。理想のカロリー摂取。


 だから今日も言おう。

 メシウマ、と。





「クリスマスに振られるとかマジざまぁぁああああ!」


 98円のカップラーメンを片手に、俺は雄叫びを上げた。

 それから勢い良く麺をすする。

 パソコンの画面に写るのは他人の不幸話。

 飯の時には欠かせないものだ。


「忘れられないクリスマスになったじゃねーか、バカめ!」


 俺は顔も見えない投稿主にドヤ顔で言い放つ。

 他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。

 自分よりも下がいる。その優越感。

 人間の醜い部分に訴えるそれは、しかし、おいしくご飯を食べる秘訣。


「おっ、連帯保証人になって六百万の借金を背負いましたぁ~? もう無理ぽぉ~? 連帯保証人になんかなるからだろバァーカ!」


 これが本当の『メシウマ』状態。

 正しい表記にするならば『他人の不幸で今日も飯がウマい』だ。



---



「おい、手ェ抜いてんじゃねーぞ?」

「手なんて抜いてないっスよ先輩」


 俺は心の中で舌打ちしながら、オッサンにヘコヘコする。

 二ヶ月ちょっと早く入っただけのクセにでかい顔しやがってムカつくぜ。

 つーか四十間近でバイトとか、二十七になる俺より人生詰んでるけど大丈夫なのかオッサン? おぉん?


「……なんか言いたいことでもあるのか?」

「まさかー、先輩に向かって意見なんてあるわけないじゃないっスか~」

「……フン」


 なんなんだろうなー、このオッサン。

 うぜぇから消えてくれねーかなー。


「ちょっと一服してくるから、お前はちゃんと手を動かしとけよ?」

「……へぇーい」


 俺はテンション低くオッサンの言葉に頷いた。

 消えてくれねーかなーとは思ったけど、マジで仕事押し付けて消えんじゃねーよ! クソが!

 怨嗟の念を背中に送りつけながら、俺はオッサンを見送った。




 しばらくして戻ってきたオッサンは意識が半分飛んでいた。

 とっととお前も作業に戻れよ! 終わらないと帰れねーんだぞ!

 そう思いながらオッサンを見ていると、目があったオッサンは深刻な相談をするように俺に話しかけてきた。


「なぁ……もしもの話なんだが、別の世界でやり直せるとしたらお前はどうする?」

「はい? 赤ん坊からっスか?」

「そうだ」


 何を思いつめた感じで話しだしたかと思えば、そんな絵空事を……。

 そんなこと話すだけ無駄だとわかるだろ、大人ならさ。

 ありえっこないんだよ、小説や漫画の中じゃあるまいしな。

 あーあ。

 早く帰りてーのに勘弁してくれよ。


「やり直したいっスね、カスみたいな残りの人生なんて捨てて」


 だから俺はちゃちゃっと自分の意見を述べた。

 高卒でマトモな就職経験もないまま二十七になった俺の人生なんて、どうせ真っ暗だしな。

 オッサンの場合は更に俺よりも酷いだろうし、迷わず答えも出るだろ。


「そう、だよな……」

「そうっス。だから早く仕事終わらせましょ」


 俺は早く帰って溜まったアニメが見たい。

 これ以上悩むのは家でやってくれよな、オッサン。



---



 バイト先に忘れ物をした。

 早く帰ってアニメを見たいと急いでいたからかもしれない。


「チッ、財布じゃなけりゃ一日くらい置いといても良かったんだけどな……」


 どうせ明日もシフトに入ってるし。

 だが財布はマズい。

 冷蔵庫の中はいつも空っぽだし、金が無ければ明日のバイトまで食べるものがない。

 戻らないという選択肢はなかった。


「あっ、オッサン。まだ帰ってなかったのか……」


 俺は通路の先からコチラに歩んでくるオッサンを発見した。

 仕事が終わってから20分以上経ってるのに、まだバイト先の近くにいたのかよ。

 しかし面倒だな……。

 オッサンに見つかると長話になる可能性がある。

 一刻も早く帰ってアニメが見たい俺としては、それは避けたい。


「見つからないのを祈るか、ダッシュで急いでます感を出すか……」


 幸いなことに、オッサンは俯きながら歩いているので俺に気づいてる様子はない。

 よし、交差するときはサーッと抜けよう……。

 と、そんなことを考えている時だった。


「――っ!」


 まだオッサンとの距離はある。

 そしてしっかりと前を向いていたから気がつくことができた。


 一時停止する気もなく、十字路に突っ込もうとするトラックに。

 そんなトラックに気づいてないオッサンの姿に。


「オッサン、危ねぇ!」


 気がつくと、俺は声を張り上げていた。

 このままではオッサンがトラックに轢かれてしまう。

 気づかれたくないとか、そんな悠長なことは言ってられない。


 だが、それは遅かった。

 オッサンは俺の声に気づくことなく十字路へと突入し……

 スピードの乗ったトラックとぶつかり軽々宙へと放り出された。


「クソッ!」


 地面を何回転もするオッサン。

 その勢いが止まったのを見届けてから、今度はトラックへと目を向ける。

 トラックは何事もなかったかのように直進を続け、既にナンバーを確認できる距離にはいなかった。

 そのことに思わず「無責任なヤツだぜ……」と悪態をつく。

 と、今はそれどころではない!


「即死かよ……」


 様態を確認しにオッサンに近寄ったが、ピクリともしない。

 これでは脈を測るまでもなく即死だろう。


 クソ!

 確かに消えろって思ったけどさ!

 なにも本当にこの世から消えることないだろーが……っ!


「アハハハハ!」

「だ、誰だっ!?」


 俺がオッサンの死を悼んでいると、甲高い笑い声がした。

 その方向に目を向けると、いつの間にいた中学生くらいの少女がオッサンを見て笑っていたのだ。

 何だコイツは……死んだ人を笑いやがって……!

 明らかな侮辱行為にふつふつと怒りが湧き上がり、気がつけば俺は少女を怒鳴りつけていた。


「死んだ人を笑ってんじゃねぇ!!」


 自分でも意外なほど大きな声が出た。

 別に俺はオッサンと仲が良かったわけじゃない。

 むしろ俺は偉そうにするオッサンをウザいとすら思ってた。

 それでも、こんな見ず知らずの少女にオッサンが笑われてるのは不愉快だった。


「えー、だってそのオッサンは死ぬことを受け入れてたんだよー?」


 俺に怒鳴られ、少女が不服そうに頬をふくらます。

 普段なら可愛らしく見えただろうその仕草も、今の俺にはふざけてるようにしか見えず、さらに怒りが増す。


「いきなりトラックに轢かれて嬉しいヤツがあるか!!」

「いやいや、ホントなんだってー」

「ふざけやがって! 何を根拠にそんなこと言ってやがる!」


 誰だってトラックに轢かれるのは嫌に決まってんだろーが!

 どんな理由が来ようと絶対論破してやんよ!


「だってアタシ、神だから」

「は……?」


 そんな意気込みがあったからか。

 俺は少女が言った言葉をすぐには理解できず、間の抜けた声を出していた。

 いやいや、仕方なくね?

 この返答はさすがに予想できねーだろ!


「いやねー、このオッサンに『貴方の寿命尽きるけどトラックに轢かれてみない?』って言ったら受けてくれたし」

「……いやいやいや、ありえねーから! 絶対そんなヤツいねーから!」

「ところがそんなヤツがいたのです! それがこのオッサン! あっ、でも最初は渋ってたから、今日ここでトラックに轢かれたら異世界転生させてあげるって言ったけど」


 あぁ、それか! それが理由か!

 って、信じられるか!

 いきなり神を名乗る少女に「トラックに轢かれて異世界転生しない?」と言われて「はい、よろしくおねがいします」ってなるか普通?

 まあでも、人生をやり直すチャンスがあったら掴みたいとは思うよな。

 しかし――


「オッサンはなんでお前の言葉を信じたんだ……?」

「そこはほら、空飛んでたり壁すり抜けたりしたら、普通の人間だとは思わないからじゃないかなー?」


 んんん!?

 言われて気づいたが、少女は宙に浮いていた。

 ついでに壁をすり抜けられることも実演してくれたので、確かに人間ではないことはわかる。


「それに死に場所も時間指定もしてあげたから、ちょっとでもアタシが普通じゃないとわかったら興味持ってくれるでしょ?」

「……まぁ冗談だと思いながら行くかもな」

「でしょー? で、ここからが面白いんだけどその前に、はいコレ!」


 と、少女がニコニコしながら渡してきたものを俺は受け取った。

 それは貧乏人のさがか。

 受け取ったのはレンジでチンするパックごはんだった。

 それも湯気が出てる温め済みのやつだ。


「そんなんどこから出したんだよ……」

「ふふん! 神ならこれくらい当然! それじゃあ話に戻るけど――」


 謎だ。

 なぜここで温かいごはんを渡される?

 神を自称するだけあって行動原理が謎すぎるぞ。


「トラックに轢かれたら異世界転生できるって嘘なの! そんなのあるわけないのにねー!」

「神なのにできないのか?」

「神でもできることとできないことがあるんだよー? トラックに轢かれるようにすることはできても、異世界転生なんて夢見過ぎー! なのにこのオッサンはホントにバカだよねぇ!」


 えげつねぇ……。

 人を騙して殺して笑ってるなんて、これが神のすることかよ……!


「お前、神じゃなくて悪魔だろ……いい趣味してやがるぜ……」

「アハハ! あながち間違ってないけどねー! なにせ生と死を司る神だし」


 生と死を司る……?

 それってつまり……。


「それより早くご飯食べてよ。君のためにご馳走を用意してあげたんだよ?」


 気が付くと、少女は黒い大鎌を手にしていた。

 それが俺の首筋に寄り添っている。

 あぁ、つまりこれは圧力だ。

 オッサンの死体を見ながらご飯三杯食べろという圧力だ。

 

 死神に騙されて、トラックに轢かれて、信じていた異世界転生もなくて、ただの無駄死を遂げたオッサンをネタに……。

 確かにメシウマエピソードとしてはこれ以上ない『ご馳走』だ。


「本当にいい趣味してやがるぜ……」







 その日から、俺は他人の不幸を喜ぶのをやめた。



テーマは『暇を持て余した死神の遊び』です。

ドSな死神ちゃんカワイイよね? 出会いたくはないけど!w



感想希望作品です。

手間でしたら下にある『文章・ストーリー評価』だけでもお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 殺人鬼が…… 赤の他人:死刑にしろー! 近所の人:いつかやると思ってたよ 身内:あの人はそんなことする人じゃないんです!
[良い点] 他人の不幸は蜜の味って主人公が言ってるくせに知り合いが死んだら笑ってるやつ見て怒るとか理不尽www
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