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第四章

 その日、どこかそわそわと挙動不審で、いつの間にかぼくの前から居なくなってしまった、キンちゃんのことは心配だったけれど、ともかく、当面の問題は宿題をどうするかだ。腰をおろしていた缶をぐらぐらさせていたら、お尻が痛くなってきたので立ちあがった。もう暗いから判らなかったが、ほのかに石油の匂いがした。缶には蓋がされていなかった。でもこんな灯油缶、いつもここらにあっただろうか。変だとは思ったが、別にどうでもいいと思った。

 家へ帰りたくないもう一つの理由には、この焼却炉のことがあった。ぼくはくすぶっている火を燃え立たせるのが好きであった。よく家の庭で消えかかっている落ち葉焚きの火を、(おこ)して燃え立たせ、せっかく消したのにと、親に叱られた。火がいつまでも燃えているのを見ているのが好きだし、燃え上がるのはもっと好きなのである。灰を()けながら、火の出元辺りをつついていると、ふいにぽっと、烟から火がついた。おっと思っているとたちまち消えそうになるので、消えてはつまらないから、そこらの枝をかき集めてくべてみた。するとぱちぱちと音がして、烟がだんだん薄れ、火が燃え上がりだした。

 用務員さんに見つかるとまずいと思ったが、今日用務員さんは風邪をこじらせて、用務員室で寝ているという話だったから、心配ないと思った。それに用務員室のある建物は、別館と背中合わせに建っており、用務員さんの方から焼却炉のこの火は見えない。

 ぼくはどきどきしながら、火に枝をくべていた。風に吹かれて、細い枝や木の葉がいっぱい辺りに落ちていた。裏庭の掃除をする人が、今日は怠けて適当にやったらしい。ぼくは木の葉をくべないようにした。昨日の朝降った雨のせいでまだ湿っているのが多く、くべると烟がもうもうとしてけむたかったからだ。小枝はくべると「ひとりごと」のような音を出しはじめた。ぼくが面白がってどんどんくべると、焼却炉から大きな焔が、静かな風に煽られたわけではないのに、ごう、と一瞬立ちあがるように燃えあがった。びっくりしたが、風は東からで、別館の校舎とは逆向きだった。その風も穏やかだったし、校舎に燃え移る心配はまったくなかった。

 こんなことをしていると、やはり怖いのは先生だが、車の先生は皆帰ってしまっていたし、最後に残っているのを見かけたのは、こどもらから「金時ババア」と綽名をつけられていた金村登紀子先生だったので、大丈夫だと思った。生徒の噂では、金村先生は幽霊が出るという言い伝えのある、音楽室への階段が怖いから、滅多にこっちへ来ないというのである。また、音楽室への階段は、設計者が何を考えたのか、踏み段が十三段であった。

 学校はしんみりと静まり返っていた。もうすっかり日が暮れて、辺りは闇だったが用務員室の前と渡り廊下に外明りが点っていて、そのお蔭で校舎裏は薄ら明るかった。

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