後輩×応援
「で、なんでいきなり辞めるなんて言うんだ?」
衝撃の退部宣言から数分後、対面に座った2人に問いかける。
とりあえず他の部員たちは練習に送りだし、部室に残ってるのは俺と田中・加藤の3人だけだ。
フラれたって話からの退部宣言だ。
あまり人に聞かれたくない話でもあるんじゃないかという配慮である。
「はい、申し訳ないのですが他の部活に移ろうかと思いまして」
「他の部活?」
「写真部っすよ!」
「え!?」
こいつら、もしかして仲遠さんの事追っかけるつもりなのか?
「それは、なんだ、やっぱり仲遠さんを追いかけてってことか?」
「はい」
「モチロンっすよ」
即座に答える二人。
フラれてもまだ頑張るのは好感が持てるけど、一歩間違うとストーカーになっちゃうぞ。
「ハァ~」
思わず天を仰ぐ。
確かに、俺はこの2人が何か面白いことをしないかって期待をしてた。
でもまさか部活をやめるって言い出すとは予想外だったな。
正直に言うと2人が部活を辞めると困る。
去年1年間、サッカー部が数々の試合で勝利できたのは彼らの功績が大きい。
3年生の先輩方が卒業した今は、特に戦力低下は避けたい時期でもある。
でも
「応援してやりたいよね」
呟く。
彼らの思いはわからないでもないし、何より面白そうだ。
俺が望んでいた面白い展開。
だから俺個人としてはすぐに許可したいんだけど……。
部長としてはそう簡単に許可するわけにもいかない。
「お前ら、写真部に行って何をしたいんだ?」
「……ある人に言われたんです。俺達は思い違いをしているって」
「だからそれを解くためにも、写真部に……一颯のそばにいなきゃならないんっすよ」
告げるその目は真剣で、真っ直ぐで、カッコいいなと思う。
「なるほど、わかったよ。お前らの退部を認めよう」
2人にはやり遂げたい何かがあるんだろう。
なら、その願いを叶える手伝いをするのが先輩の役割だろうさ。
「すいません」
「いいさ、こっちも別にタダで折れるつもりはない。あっちの部長と相談して、試合の時だけ借りられないか交渉するつもりだ。お前らもそれくらい良いだろ?」
「いや、それはちょっと……」
困ったように否定してくる。
どうせ仲遠さんと一緒にいる時間が減るとか思ってんだろ。
予想済みだ。
「……試合、応援に来てもらえるかもしれないぞ(ボソッ」
呟いたその言葉に2人ともピクっと反応する。
「……シュートとか決めればカッコいいだろうな~(ボソッ」
ピクピクッ。
「……手作りのお弁当(ボソッ」
「「部長! これからもよろしくお願いします!」」
「任せとけ!」
こうして俺は後輩2人の願いを叶え、サッカー部部長としての責任も果たした。
あとは写真部の女王様をどうにかすればいいだけだ。
……でも、なんか知らないけど俺あの人に嫌われてるんだよな~。
ま、一肌脱いで頑張りますか。
「んじゃ、写真部に行くか!」
「「はい!」」
俺達は連れ立って部室を後にした。
☆
「「こんにちわ! 入部しに来ました!」」
ドアを開けるなりそんなことをほざいた男子生徒2人に一瞬で近づき、鳩尾に一発づつ拳を撃ちこむ。
突然の事にグヘッと呻くが、お構いなしに開けられたままのドアから蹴りだした。
そうして2人を廊下へと完全に蹴りだしたら、すぐにドアを閉める。
残念ながら鍵は無いので、近くにあった重そうなダンボールを代わりに置く。
内開きのドアだからこれで十分だろう。
「んじゃ、これから何しようか?」
「いやいや、流そうとしても流れないから」
そう言って恵子がせっかく置いた段ボールをどかし、ドアを開ける。
「大丈夫? 加藤君、田中君」
「あぁ、大丈夫。ありがとう黒須さん」
「慣れっこ慣れっこ、中学までは毎日こんなもんだったからな」
ドアの向こうで転がってた奴らの心配なんかしなくていいのに。
てかなんだ「入部しに来ました!」って。
アホか。
「ふふ、いらっしゃい田中君、加藤君。うちの子がごめんね、慣れない告白なんかされたから気が立ってるのよ」
いつの間にか電話を終えた部長もやってくる。
「そんなんじゃありませんよ、知らない人が勝手に入ってきたから攻撃しただけです。私はあんな告白ちっっっとも気にしてませんから!」
「え? マジで! なら昔みたいに話してくれんの!」
「は? 誰ですか貴方。気安く話しかけないでください」
バカが真に受けて話しかけてくる。
絶交って言っただろうがアホ。
脇でうな垂れるバカは放って、もう一人が話しはじめた。
「九条院先輩、僕達は写真部に入部を希望します」
「ん~? でもあなた達サッカー部所属よね?」
「それなら大丈夫っす。辞めてきたんで」
「京平、適当なことは言うな。すいません、正確にはまだ退部していないのですが、色々と事情がありまして。詳しくは後から来る奥間先輩から話があると思います」
瞬間、空気が変わった。
「……へ~、奥間君がここに来るんだ?」
先程まで朗らかに笑っていた九条院先輩の目が細まった。
笑顔はそのままなのだが何か作り物めいた雰囲気を感じる。
アチャーと頭を抱える。
横を見ると恵子も同じように「面倒なことになった」と顔をしかめていた。
部長にとって奥間先輩の話題は鬼門だ。
本人なんていったら禁忌だ。
去年の『ある出来事』を切欠に関係は最悪になっている。
といっても部長が一方的に嫌っているだけなんだけど。
奥間先輩は何で自分が嫌われてるかわかっていない。
事情を知ってる私達からすれば、嫌われて当然の行動をとったのは奥間先輩だし同情はしないけどね。
「よくも私の前にノコノコと顔を出せたものだわね、あの王様は。クックックッ」
「えーと、九条院先輩?」
突然の変化に戸惑っている。
だが、これは私にとってチャンスだ。
コイツらが写真部に入ってくるなんて嫌だし、何としてでも阻止したい。
しかし部長なら面白さを、さらなるゴシップを求めて2人を入部させるだろう……普段ならば。
奥間先輩への怒りで我を忘れている今の状況ならば、拒否することもあり得る!
「それじゃ部長! こいつらの入部なんて認めませんよね?」
「え? 認めますよ」
あっさりとそう言われた。
「な、何でですか!?」
「サッカー部から主力2人が抜ければ、奥間君はさぞ困るでしょう」
そう言い、口角を上げる。
うっわ~、悪い笑顔だな。
「それに、ある人から頼まれもしましたから」
部長は手に持ったスマートフォンを上下に振った。
誰だ? さっきの電話の相手は。
余計なことしてくれやがって。
私がそう胸中で毒づいた時
コンコン
と再び部室のドアがノックされた。
薄く笑った部長が
「どうぞ」
と声をかける。
「失礼するよ。やぁ、ごめんごめん。先生に捕まっちゃってさ」
ドアを開けて入ってきた奥間先輩は、いつも通りの柔らかい笑顔を浮かべていた。
感想待ってます。