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たな×かと  作者: 狐金百合
第一章
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馬場ちゃん×記憶

 私と馬場ちゃんはしばらくじゃれ合った後、いつものように各々でマンガを読み始めた。

 馬場ちゃんは古い名作といわれるものから、新しい期待作まで、学校に大量のマンガを持ってきてるからそれを借りて読む。

 私がこの屋上に足しげく通う理由の半分はこのマンガ目当てといっていい。

 そうして、静かに過ごしていたら唐突に、


「仲遠、なんかあったのか?」


 近くに胡坐をかいてた馬場ちゃんが訊いてきた。


「……何で?」

「なんとなく。いつもと様子が違う感じがしただけだ。なんもないなら別に構わないけどよ」


 すごい、話したけで何かあったと察するとは。

 これが友情パワーってやつか。


「う~ん、ないわけじゃないけと」


 確かに何かあった。

 でも馬場ちゃんに話すようなことか?

 バカな幼馴染みの話なんて面白くもないし。


「そうか、んじゃ話せ」

「え!? 普通は『話したきゃ話せよ』的なこと言うんじゃないの!」

「ウッセーな、何で俺がお前のこと気遣わなきゃなんないんだよ。それよりなにがあったのかの方が興味あるから早く話せ」

「え~」

「話さんとマンガは貸さない」

「話させていただきます」


 お小遣いが月に1000円の私ではマンガ買えないから、馬場ちゃんの貸してくれる大量のマンガは貴重なんです。




「なんかスッキリしないな」


 昼休みに起こった事を聞き終えた馬場ちゃんはそう言った。


「どこが?」

「その二人は奇特にもお前のことが好きで、でも一年間無視してたんだろ?」

「うん、話しかけても逃げられたし」

「何でそんなことしたんだ?」

「え? 私を、その、取り合ってたからじゃない?」

「あぁ、そうだろうな。だが別にそれはお前から離れなくたってできるはずだ。相手が背も脳もミニマムなミジンコ女だ、気付かせずに裏で勝負するくらい楽勝だろう」

「本当、息するように悪口が出るな~」

「どうせ三歩歩けば忘れるだろ。……まぁ、あとはいきなり無視したりすれば、お前が傷つくって事くらい予想ついたはずだ。好きなのにそんなことするか? もしかしたら、そうせざるを得ない理由ってのがあったのかもしれないが、ともかくそこら辺がスッキリしない」

「う~ん」


 言われてみるとなんかおかしいかも。

 あの時は怒りに任せて気付かなかったけど、思い返してみるとフラレた時のあいつら、凄く「予想外」って顔してた気がするし。


「おい、最後に話したのはいつだ?」

「え?」

「なんか理由があったとするなら最後だろう」

「えーと、いつだっけ?」

「俺が知るかよ」


 高校の入学式は違うし、その前の春休みにもそういや話してないな。

 合格発表の時もそういや一人だったっけ。受かったのが奇跡過ぎて気付かなかった。

 あれ、本当にいつだ?

 この頃は受験勉強で頭がパンクしかけてて記憶が曖昧なんだよね。

 受験……違う。

 卒業式も違……いやまて、ここら辺で何かあったはず。


「思い出した! 卒業式前日だ!」

「よく思い出したな。で、何を話した?」

「記憶が曖昧なんだけど『高校入学までは会わないようにしよう』とかなんとか」

「誰が?」

「透流」

「うーん、多分それが原因なんだろうが『高校入学まで』か。なんか他にも言ってねぇか? よーく正確に思い出せよ」


 そんなこと言われてもな~。

 正確に、正確に。

 そうだ場所は因縁ある裏山、その頂上展望台だった。

 そこで透流が言ったんだ、確か


「『距離をおこう、全ての決着がつくまで。そうしないとダメになる』」

「あぁ?」

「確か透流がそう言ったんだよ」

「おい、それがどうして『高校入学まで会わないようにしよう』になるんだよ」

「……さぁ?」


 頭にゲンコツが落とされた。


「イッタァ~!」

「この馬鹿! それがマジなら話変わってくるじゃねぇかよ!」


 馬場ちゃんがワシャワシャと頭をかきむしる。


「(となると、そいつらの中ではまだ約束が続いてたわけか……)」


 馬場ちゃんが小声で何事か呟く。


「何々? 何かわかったの?」

「まぁ、ある程度は。でも確証ねーし、あとは放課後待つしかねーな」

「さすがは学年主席! それで何がわかったの、教えて教えて!」


 詰め寄る私を半眼で睨み付けた馬場ちゃんが、再度頭に拳骨を落としてきた。


「自分で気づけ、アホ。さすがにそいつらに同情するわ」


 そういって立ち上がる馬場ちゃん。


「? どこかいくの?」

「あぁ、ちょっと用事思い出したから行ってくるわ。放課後まで戻らねーから、漫画はいつものように貯水タンクの下にでも片づけといてくれ」

「あいあーい」


 主のいなくなった体操マットに思いっきり寝そべりながら答える。


「制服シワになるぞ……あ、そうだ」

「ん?」

「変な事するなよ」

「変な事?」

「そうだな、いつもと違う事だ。放課後までここで時間つぶして、そのあとはいつも通りにまっすぐ部室行け」

「? うん。そのつもりだけど」

「ならいい」


 そんな奇妙なことを言った馬場ちゃんは背を向け、梯子も使わずに屋上に飛び降りる。

 そして鉄扉を開けて出て行った。

 ガチャンと鉄扉が閉まると、外側から小さくカチって鍵のまわる音が聞こえた。



 ☆



 しっかりと屋上に鍵をかけ、校内に足を向ける。

 さて、勢い込んで出てきたのはいいがこれからどうするもんか。

 とりあえずその二人、田中と加藤には接触しなきゃならないな。

 この二人はあんまり学校内の事に詳しくない俺でも知ってる有名人だ。

 少しなら情報もある。

 確か二人ともサッカー部だったか。

 となると放課後、部活に行かれる前に捕まえる必要があるな。

 幸いにもクラスが同じだ。

 今から教室に戻って、放課後になったらすぐ捕まえよう。

 教師がうるさいかもしれないが、まぁそこは我慢するしかない。


 大切なダチが困ってんだ、少々の叱責くらい我慢しよう。


 そんなこと考えているうちに目的の教室につく。

 その扉を横に開いて入りながら、言葉を放つ。


「すいません、遅刻しました」


 教師から投げられる注意を聞き流して自分の席に向かいながら、教室内に目を走らせる。

 いた。

 中肉中背に眼鏡の田中と短髪長身の加藤。

 あとはこいつらから放課後まで目を離さなきゃいいだろう。



 でもなんでこいつら鼻にガーゼ突っ込んでるんだ?

 ぶっ飛ばしたとは聞いたけど……仲遠、ちょっとお前やりすぎじゃね?

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