馬場ちゃん×屋上
もっと早く投稿しようと思ったんですが長くなりすぎたんで分割しました。分割した残りはなるべく早く投稿したいと思います。
先輩と別れた私はソロソロと廊下を進む。
先程授業の開始のチャイムが鳴ったので、廊下には人気はない。
だが、油断してればさっきのように思いがけず人と出会うことがあるかもしれない。
ここは慎重に行くべきだ。
そうしていくつかの廊下と階段を経て、ようやく目的地である屋上に到着した。
ところで、昨今の学校では安全性や自殺対策で屋上は施錠するが徹底されている。
だから当然、目の前の鉄扉も固く閉ざされている。
マンガとかだとヘアピンでのピッキングや、力を込めて揺すれば開いたりするけど、勿論現実ではそんな都合よく開いたりしない。
施錠された扉は一般的に鍵がなければ開かないのだ。
「えーと、どこだっけ……あ、あったあった」
私はサイフの中に隠していた鍵をとりだし、目前の扉の鍵穴に差し込む。
それを右に回すとカチッという音をたてて簡単に扉が解錠された。
……確かに鍵がないと開けられないけど、逆に鍵さえあれば簡単に開けられるんだよな~。
鍵の開いた鉄扉だが、扉自体も重いので力を込めて体全身で押し開く。
扉の開いた先には一面緑色のタイルが敷かれ、四方を高いフェンスに囲まれた空間が広がっていた。
頬を、室内では感じられない心地のいい春の風が撫でる。
その空間を見回すが、人影は見当たらない。
けどそれはいつものこと。
後ろ手で扉を閉め、きっちり鍵もかける。
そうしてから、一段高いところに設置してある給水塔へと至る梯子を上る。
梯子を上りきると四畳ほどの開けたスペースがあり、その奥に大きな貯水タンクがいくつか並んでいた。
その手前のスペース。
ここが目的地。
案の定そこには、どこからか持ってこられた体操マットの上で少年が雑誌を顔に被せて寝ていた。
「ばーばちゃん」
少年の頭の近くでしゃがみこみ、声をかけながら雑誌を取り払うと「う~ん」と唸りながら顔をしかめた。
「誰だよチクショー……なんだ 仲遠か」
上半身を起こし、まだ眩しいのか目を細めてこちらを見てくる。
「ヨッス、おはよう」
「オゥ」
そういって再びマットに倒れ込む。
その際、彼の銀髪に陽光があたり鈍く光る。
「もう授業始まってるぞ、でなくていいのか?」
流れるその髪に少しみとれていると、寝転がった馬場ちゃんが訊いてきた。
「うん、今日はサボり」
「珍しいな。内容理解できないくせに、無駄な努力で一生懸命に授業受けてた馬鹿がサボりなんて」
「ヒドイ! バカなりに頑張ってたのに! それに馬場ちゃんだってサボってるじゃん」
「俺は授業受けなくてもテストで点とれるしな。無遅刻無欠席で赤点とるやつと一緒にするな。てかサボって大丈夫なのか中間テスト」
「あー、いや、そこは成績のいい友達が勉強会などを……」
「なにが勉強会だ、お前の質問に答えてるだけで終わるわ。毎回テスト前に自分の勉強時間削る俺や黒須のことも考えやがれ」
「ゴメンね☆」
「……ウゼェ」
呆れたように呟くと、馬場ちゃんは傍らに置いてあったマンガを読み出してしまった。
彼は馬場要。去年同じクラスで仲良くなった友達だ。
ウルフカットの銀髪や着崩した制服、乱暴な口調など不良っぽい男子生徒。
だが銀髪はロシア人のおじいさんの血が濃く出ただけの地毛。
口は悪いが喧嘩早いわけじゃない。
制服の着崩しだってだらしなくボタンをあけてる程度。
授業をサボるが成績は学年上位。
などなど、不良かと言われると少し疑問。
まぁ、屋上の鍵をこっそり盗んで、型取って合鍵作ったのはやりすぎだったと思うけどね。
……その合鍵の合鍵貰ってる私に文句は言えないけどさ。
そして彼が不良っぽくない一番の原因は。
「ちっちゃいんだよな~」
「テメーの方がチビだろうが!」
起き上がり怒鳴ってくる馬場ちゃん。
でも本当のこと。
確かに私より20センチくらいは高いけど、それでも160センチ、高校二年生男子の中でも群を抜いて小さい。
しかも童顔なので幼さに拍車をかける。
「じいちゃんの髪じゃなくて身長が遺伝さえしていれば……」
膝を抱えてブツブツと呟く馬場ちゃん。
「いいじゃん、上を向いていこうよ」
「仲遠……」
「どうせ私達は基本、上向いて生活してるんだし、気分まで下向いてたら滅入っちゃうよ」
「別に上手いこと言ってねぇよ! ドヤ顔やめろ!」
「別に進撃しないけど私達の周りは巨人ばっかりだよ、この世界は残酷さ」
「ウッセー! テメーから駆逐するぞ!」
ギャーギャーと下らないことを言い合う。
それが妙に心地いい。
ゆっくりと春の空を雲が流れていった。