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たな×かと  作者: 狐金百合
第二章
24/27

復讐×復習

累計ユニークアクセスが1000人超えてました、すっごく嬉しいです!

読んでくれて本当にありがとうございます。

ですので頑張って早めに書き上げましたが、この後は「ギフト」の方に取り掛かろうかと思ってるので暫くお待たせするかもしれません。


 3人が入部してから1週間経った。


「うーん、平和だな~」


 授業と授業の間の僅かな休み時間。

 自分の机に頭を乗せて呟く。


 その言葉通り、この1週間は平和そのものだった。


 懸念していた御門みかど岩飛いわとびさんだったが驚くほど静か――とは言い難いが、特に困ったことは起きていない。

 それどころか、御門は入部した翌日、立派なトサカだった頭はスポーツ刈りに、改造制服は通常制服を着崩したものへと変わっていた。

 それにより、バリバリの不良少年からちょっとヤンチャな少年へとグレードダウン。


 1日でなんでこんなに急激に変わったのか、訊いてみたが


「いえ、写真部の部員として恥ずかしくない格好をしただけっすよ姐御」


 としか言っていなかったけど。


 ……でも、その後に部室にやってきた恵子に対して


「ッ! 黒須先輩オハヨーゴザイヤス!」


 って腰を直角に曲げて挨拶してたから恵子が何かしたんだろう、多分。


 まぁ、あの時代錯誤で目に痛いファッションを毎日見なくて済むようになったのはありがたい。

 恵子に感謝だね。


 その御門は昼休みの度に私を尋ねてきたり、部活の最中も私の近くでウロウロしている以外は害はない。

 すっごく鬱陶しいだけ。

 「まるで忠犬ね」とはその様子を見ていた部長の談。




 そしてもう1人の方。

 私に復讐宣言をしている岩飛さんだが、こっちも拍子抜けするくらい何もない。

 むしろ、復讐って言うよりも――


「……仲遠さん、さっきの英語の小テストどうでした?」


 そんなことを考えていたら声が掛けられた。

 顔を上げると声をかけてきた人とパッチリ目が合った。


 零れ(こぼれ)そうなほど大きな瞳。

 桃色でプルプルと柔らかそうな唇。

 姫カットにセットされた艶やかな黒髪。

 セーラーを押し上げて自己主張する胸。


 それらを持った、多分この学校一の美少女。

 岩飛愛乃いわとび・あいの、その人だった。


「あ~、小テストね……まぁ、ボチボチ」

「……何点です? 私は100点でした」

「おぉ、すごいね岩飛さん! 英語も得意だったんだ! 私はまぁ、英語は苦手で」


 先程の授業で返され、そのまま机の中に突っ込んだクシャクシャの答案を取り出して岩飛さんに見せる。


「…………30点」

「……ハハハ、英語は苦手で」


 乾いた笑いしか出ません。


「……数学の時も古文の時もそう言ってました」

「数学も古文も苦手なんだよ~」

「……何が得意なの?」

「ん~、体育?」

「……保健体育のテストって事?」

「あぁ、違う違う普通に実技の方。体つくりとか、食育とかよくわかんないし」

「……そう」


 なんだかがっかりしてる岩飛さん。

 どうしたんだろう?


「……ところで、ここの所だけど簡単なスペルミス」

「え、そうだっけ?」

「……ここはSじゃなくてZが正しい」

「あ~なるほどね。どこか違う気はしてたんだよ。ありがと岩飛さん!」

「……」

「英語の佐藤先生。小テストはやるくせに解説してくれないから困るよ」

「……前回の授業のノートを見れば大体わかるはず」

「あー、前回のノート、ね」


 机の中から英語のノートを取り出し開く。

 だが――


「……仲遠さんのアルファベット、達筆すぎて読めない」

「ごめん、私も読めない」


 寝ぼけて書いたから、書いた私でさえ全く内容が理解できない。


「……わかりました。一緒に勉強しましょう」

「ありがとう岩飛さん!」


 丁寧に、私の間違った問題を解説してくれる岩飛さん。

 私はその内容を考え、理解しながらノートに書き写す。


 こんな風に、小テストなどが返されると岩飛さんはやってきて勉強を教えてくれる。

 しかもその教え方がすっごく丁寧でわかりやすい。

 どこかの腹黒(恵子)チビ狼(馬場ちゃん)と違って悪口言われたり、勉強するように脅されたりもしないし!

 この時だけは、少しだけ勉強が楽しいと思える。



 でも、これが彼女の言う復讐なのかな?

 復讐ふくしゅうってよりも、ただの復習ふくしゅうな気がするんだけど。




 ☆




「あれってどう見える?」


 離れた席に座る一颯と、その脇に座る岩飛さんを見ながら2人に声をかける。


「一颯が勉強教わってる」

「仲良く勉強してるね」


 前者は加藤君。

 後者は田中君の言葉。


 私達は今、教室後方の加藤君の席近くに集まっていた。

 話題はもちろん一颯と岩飛さん。


 ちなみに私も2人と同意見。

 ただ勉強しているように見える。


「復讐宣言しといて、岩飛さんは何考えてるのかしら?」

「さぁな、一颯の頭の悪さは筋金入りだってのにわざわざ勉強教えるなんてよ」

「僕らも苦労したもんね、中学時代」

「わかるわ……」

「ハハッ、そういや去年はずっと黒須さん(・・・・)かなめが面倒見てくれてたんだっけか」


 来た。

 会話の内容ではなく、加藤君の言った『単語ワード』に私は表情を変えずに身構える。


「ごめんね、面倒掛けて。大変だったでしょ」

「大変? 大変で済むレベルじゃないわよ。勉強教えてたのにちょっと目を離すと逃げ出すし」


 何てことはない風に会話を続けるが、心の中では葛藤が渦巻く。

 会話の内容なんて頭に入らない。

 今あるのは、このチャンスで行くべきか、行かないべきか。

 それだけ。


 会話の内容など忘れて、私は心の中で悩み続ける。


 そして――決める。



 よし、行こう。



 絶好のタイミングがめぐってきたんだ。

 丁度3人だし。

 言うなら今しかない。


 高鳴る鼓動を抑えて言葉を発する。


「ところで、加藤君、田中君」

「なんだ?」

「なに?」


 揃って一颯から視線を私に移す。

 その目を見ながら言葉を慎重に紡ぐ。


「あー、なんで私の呼び方黒須『さん』なの? 同じ部活で同学年なんだし呼び捨てでいいわよ」


 ……よっし、ようやく言えた。

 不自然じゃなかったかな?

 ちゃんと『会話の途中でちょっと気になっただけ』って風に受け取ってくれただろうか。


 馬場に言われて、少しは積極的になろうと思ってから約2週間。

 私に出来るアプローチ。

 その初めの一歩として私が考えたのは、呼び方を変えてもらうってこと。

 一颯みたいに下の名前で呼んで貰うのはハードルが高すぎるけど、せめて『さん』は無しで呼び捨てで呼んで貰いたい。

 『さん』がついてると少し――壁を感じる。


 だから、呼び捨て。

 そうすれば今より少しは彼に近づける気がするから。

 前進できる気がするから。



 でも、呼び方を変えてもらう。



 ただそれだけのことを伝えるのに、こんなに時間がかかってしまった。

 あまり人が多い所だと言いにくいし、いいタイミングがなかったからしょうがない。

 ……別に、言いだせなくてチャンスを何回も見逃したわけじゃない。

 あれは、そう、言わなかっただけ。


 結果的に今、言えたからいい。

 かかった時間は気にしない。


「マジで? いや~最初に『さん』つけて呼んじゃったから変えるに変えれなくてよ。

 よし、わかった黒須。『さん』は無しな。あ、俺のことも加藤でいいぜ」

「僕の事も田中でいいよ」

「わかった。改めてよろしく……加藤、田中」


 よかった。

 私の提案に2人とも賛同してくれた。


 好きな人に初めて『さん』無しで呼ばれた自分の名前が心に響く。

 そして自分が初めて『君』無しで呼んだ好きな人の名前を噛みしめる。


 なんとか、これで私も少しは前進できたかな。

 どんなに小さくても、ゆっくりでも、前に。


 ◇◆◇


「で、話を戻すんだけど2人はどう思ってるの?」

「どう思ってるって、何をだよ?」

「勿論、岩飛さんの事」

「あぁ、それな~」

「判断に困る、ってのが正直なところかな」


 ちょっと困った様子で加藤と田中は答える。


「黒須自身はどう思ってんだ?」


 加藤が私に問いかける。


 ……あ~、少しヤバい。


 呼ばれ慣れてないから、こんな何でもない風に唐突に呼ばれるとビックリしちゃう。


「あー、私はあれが復讐と見れなくもないと思う」


 高鳴る鼓動を抑えて答える。


「どういうことだ?」

「一颯がバカなのは有名だし、岩飛さんはかなり勉強出来る方みたいだから、成績の差を見せつけて馬鹿にしてるのかも」

「え、そうなのか!?」

「可能性があるってだけ」

「だね。『そう見ることもできる』ってだけだよ。だから不用意に先走らないでね」

「わーってるよ」

「かとっ……加藤こそどう思ってるの?」


 くっ、噛んだ。


「俺か? 俺は『復讐するって言ったくせに勉強教えてやるなんていい奴だな』って」

「単純だな~、京平は」

「なんだとっ!」

「褒めてるんだってば。僕なんか穿った見方しか出来ないから」

「ハッ、んじゃお前の考えを聞かせてみろよ」

「僕も黒須と同じで成績の差を見せてるんだってのには賛同。ただ、そのことに負い目を感じてる様に思えるんだよね」

「なんだそりゃ」

「悪いと思うなら最初っからしなければいいじゃない」


 田中の言ってることはよくわからない。

 悪いと思ってるならわざわざ成績なんて見せに来なきゃいいのに。


 この言葉通りだったら、やってることがすごく中途半端だ。


「うーん、その通りなんだけどさ。なんて言うか『復讐はしたいけど、本気で傷つけたくはない』って感じかな。その結果が勉強の手伝いになってるんじゃないかな?」

「わけわかんね―な」

「ハハッ、僕も言っててよくわかんないよ。ただ、岩飛さんは本当に酷いことはしないんじゃないかと確信はしてる」

「まぁ、それには同感だな」

「この1週間、あの復習以外は特に何もしていないし――むしろ、よく気が利くし、人当たりもいいものね」


 さっき私は、彼女の行動が復讐に見れなくもないって言ったけど、本心では彼女の行動に『復讐』と言えるほどの悪意が込められてないことはわかっている。


 彼女は教室でも、部活でも人に悪意を向けたことは一切ない。

 その美貌を笠に着て他者を見下すようなこともない。


 岩飛愛乃――彼女からは人を傷つけよう、貶めようという悪意が感じられない。

 彼女と触れ合っていると、そのことが否応なくわかる。


 まぁ、だからこの勉強になんの意味があるかわからなくて困ってるんだけど。


 復讐を宣言している癖にやっていることは中途半端。

 目的が見えない。

 何がしたいのか、どうしたいのか。

 全くわからない。


 もし悪意ある行動ならやめさせることが出来る。

 でも、それが感じられないからどうしようもないってのが現状。


「まぁ、放っておくしかねーんだよな」

「一颯は嫌がってないしね」


 そう思ってるのはこの2人も同じみたい。


「むしろ勉強させる手間が省けて助かってるわ」

「ハハッ、そりゃ言えてるな」

「あれで勉強嫌いが治ればいいんだけどね~」


 私達は離れた席で勉強にいそしむ2人を見守る。

 ここからだと、どう見ても仲の良い友人にしか見えない。

 本当に岩飛さんは復讐をするんだろうか。


 チャイムが鳴り、休み時間が終わる。




 ☆




「またやってるよ」

「仲遠もいい加減自分がバカにされてるって気づけっての」

「気づかないからバカなんでしょ」

「キャハッ! そうだったそうだった!」

「てゆーかあんなに露骨に見下しといて勉強教えるとか、アイツマジであり得ねーよ」

「何考えたらあんなことできんのかね」

「何も考えてねーんじゃねーの? 脳みその中身も全部あの胸にいってんだよ」

「あんな下品なもんぶら下げて、男をどんだけ引っかけてんのかね」

「仲遠に近づいたのも加藤君や田中君に近づくためだったりして」

「あぁ、アイツだったらあり得るかもね」

「男に色目ばっか使ってんだよ」

「アイツ、マジ目障りだよな」



イジメ(消し)ちゃおっか、アイツ」

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