正座×説教
「さて、いったいどういう事かしら、これは?」
部室へと入ってきた恵子が静かに尋ねる。
あぁ、逃げ出したい。
恵子の後ろに般若が見えるよ。
「あー、いやえっと……」
「つまり、その、あれだな、うん……」
「アハ、ハハハ、ハハ、ハ……」
「姐御、誰っすかこの女?」
私はどう説明したもんか言葉に詰まり、京平は適当な言葉で濁し、透流は笑ってごまかす。
1人だけ、恵子と面識のない御門だけが空気を読まない発言をしている。
「ハァ……わかった、私が悪かった。もっと具体的に訊くわね――なんで勧誘してないの?」
溜息をつき、額に手を当てながら恵子が問い直す。
「「「……こいつが悪い」」」
「ちょっ! 姐御!?」
私たち3人は幼馴染特有の、息の合った動きで御門を指さした。
御門の抗議の声?
知らない。
聞こえない。
「……ふーん。で、君はなんなの? 彼らはこう言ってるけど」
そこで初めて恵子は御門に視線を向ける。
「人に名前を尋ねる時はまずは自分から……って思ったがいいぜ、教えてやるよ」
生意気なことを言いかけた御門だったが、ビックリするほど冷たい恵子の視線に怖気づいて慌てて言葉を付け足した。
ヘタレめ。
それでも不良か!
「俺の名前は御門正親、一颯の姐御の舎弟だ!」
「ちょっと待て! 変な自己紹介するな、私にまで火の粉がかかるだろ! それにまだ認めてないし!」
「そうだ! お前みたいのが近くに居たら一颯の迷惑だ!」
「ウッセーな! さっきから言ってんだろテメーにはカンケ―ねーってよ!」
「あ゛ぁ?」
「やんのかコラ!?」
再び額つけて睨み合う京平と御門。
あーもう、いい加減にしろ!
心の中で叫んだ瞬間――
バンッ!
と大きな音が鳴った。
その音に睨み合っていた2人だけでなく、私と透流もビクッとなる。
「――私が、質問してるんだけど」
掌で机を叩いた恵子が、静かに告げる。
「で、御門君だっけ? 一颯の舎弟だか何だかわからないけど、君は何でここにいるの?」
「あ? それは『四天王』の『女王』を倒すためだ」
堂々と言い放つ御門。
本当に空気読め!
目の前の美少女の皮をかぶったゴリラが発する殺気くらい感じ取れ!
野生じゃ相手の力量を見極められないと死に繋がるんだぞ!
あぁもうヤダ、ヤバい。
『自称』舎弟にウンザリしながら天を仰ぐ。
そんなKY野郎に恵子は――
「ふーん、そう。わかったわ、それじゃ出て行ってもらえるかしら」
平坦な口調でそう言い放つ。
「……は?」
普通の口調で言われたため、意味が理解できず呆けた声を出す御門。
「わからなかった? 部活動の邪魔になるから『消えろ』って言ったのよ」
「あ? お前に関係ないだr――」
「やめて御門! これ以上恵子を刺激しないで!」
慌てて御門の声を遮る。
「あなた、うちの部活に入る気ないんでしょ? そんな人に長居されたら迷惑なのよ」
「え? 俺ここに入部するぜ?」
「わかったら早く――え?」
「だってここには姐御がいるからな! 側で勉強させてもらうんだ、入部するのは当然だろう」
「え、アンタ写真部に入るの!?」
思わず声が出る。
「押忍! よろしくお願いします姐御!」
その声にまぶしい笑顔で答える御門。
「へぇ、そう。……一颯、ちょっと」
御門の眩しい笑顔に頭痛を覚えていたら、恵子が私を少し離れた所に呼んだ。
「ちょっと、あの不良はなんなの?」
「あ~、なんていうかその、良くわからないっていうか」
「はぁ!? 部長を倒すとか言ってる危険人物じゃない。よくわからないって何よ、アンタの舎弟なんでしょ」
「アイツが勝手に言ってるだけだっての、私だってさっき会ったばっかりだし」
「なんで会ったばっかりなのに舎弟とか言われてるわけ? 一体何したの?」
「それは、その……」
「一颯、何か隠してるわね」
「ギクッ!」
見下ろされ詰問される。
「言いなさい」
「ちょっと、ほんのちょっとぶっ飛ばしただけ……」
「また!? 今でも『狂犬』とか言われてるのにまたそんなことしたの!?」
「し、仕方なかったのよ、私の事を馬鹿にしてきてさ」
「思わずやっちゃったと」
「ウッ、そうです」
「でもなんだって、舎弟?」
「なんか強くなりたくて、負けた私から鍛えてもらいたい……って感じ?」
「……ハァ、わけわかんないわね」
「で、でしょ!」
「でもま、よくモテるわねアンタも」
「べ、べつにモテてないし!」
一瞬。
ほんの一瞬だけ恵子は眼をそらした。
しかしすぐに――
「そもそも、彼1年でしょ。どうやって部長が『女王』だって知ってここに来たのよ?」
「え、それは馬場ちゃんが連れてきたんだよ」
「馬場? どこにいるの?」
その言葉に部室を見回す。
部長はニヤニヤと笑って座ってる。
あれ、なんで岩飛さんと姫愛ちゃんが仲良く喋ってるんだろう。
いつ来たんだろう。
でもそれだけ。
馬場ちゃんの姿はどこにもなかった。
「馬場ちゃんめ! 逃げたな!」
その言葉に、男子3人も部屋を見回した。
「ホントだ、要の奴いないぜ!」
「面倒だと思って逃げたんだね、きっと」
「くっそ、勝ち逃げしやがって!」
三者三様のリアクションをする。
「大体事情は分かったわ」
そんな私達は気にも留めず、腕を組んだ恵子が告げる。
「馬場がそっちの御門君を連れてきて、なんやかんやあって一颯が彼を殴り倒して舎弟にしたってことね」
「そうそう、そんな感じ。さすが恵子だよ」
「で、そんなことがあったから加藤君も田中君も部室に残っていたと」
「おぅ!」
「勧誘に行こうと思ったらちょうど要と御門が来ちゃってね」
「なるほどね、わかった」
そう言うと考えるように目を閉じる恵子。
しかしそれも数秒――
「御門君、さっきは出て行けっていてごめんなさい。君が写真部に入るのなら問題ないわ」
パッと目を開け、御門を見つめながら恵子は謝罪する。
「お、おぅ」
突然の謝罪に驚く御門。
コイツは全く気付いてないだろうけど、さっきより幾分か怒りも収まっているように見える。
「それじゃ、君達4人に同じ写真部の仲間として言いたいことがあるの」
「ん? どしたの恵子」
「とりあえず座って」
その言葉に、各々がパイプ椅子に座ろうとして――
「何してるの? イスはいらないわよ」
「「「「え?」」」」
私達4人の口から同じ疑問の声が出る。
「床に正座して」
「えっ!?」
「はぁ!?」
「本気?」
「何言ってんだ!?」
床に正座!?
口々に反論する私達。
「うるさいわね。そもそもの発端が馬場だったとはいえ、暴れたのはみんな同罪。
ただでさえうちの部活は今、どっかの『狂犬』のせいで暴力的なイメージがついてるって言うのに、どうする気よ。
あと御門君、写真部に入るつもりならその恰好だけは何とかしてちょうだい。
流石にその姿のままだと入部は許可できないわ。
以上、わかった?
わかったら正座して」
正論をぶつけられたので、大人しく正座する。
御門は暴れるかと思ったが、私が正座したからか渋々正座する。
そんな私達を前にして、仁王立ちした恵子は口を愉快そうに歪めた。
あぁ、そうか。
「――さて、それじゃお説教を始めましょうか」
怒りが収まったんじゃなくて、振り切れちゃったのか。
目が笑ってない笑顔を浮かべる恵子を見て、私は早々に諦めた。
……足、痺れるだろうな~。
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