姐御×お姉さま
長らくお待たせしました。
色々とありましてこんなに遅くなってしまいました。
ですが、どうか見捨てないでくださるとうれしいです。
……一体何なんでしょうか。
パンフレットに示された写真部の部室前まで来てみたが、その室内は非常に騒がしい。
なので入ろうか入らまいか迷い、遠目に眺めて様子を見ることにした。
しばらくすると、部屋の中で大きな声と物音がし、先程部室棟前で出会った大柄な不良少年が田中君と加藤君に引きずられて出てきた。
失神しているのか抵抗もなく、されるがままに引きずられていく少年。
しかし、20メートルほど引きずられたところで意識を取り戻したのか、目を開ける。
遠目で詳しくはわからないが、何事か田中君と加藤君と話をしているようだ。
引きずられながら。
見た状況からもわかるとおりに、彼らの関係は良いものではないらしい。
内容はわからないが、怒鳴り合いながら進んでいく。
あ、不良少年が暴れだした。
引きずる2人が力を込めて抑えるが、強引にその手を振り切る。
自由を取り戻した少年は、そのまま2人を置いて走り出す。
一直線に写真部の部室へと突っ込んでいく不良少年。
数秒遅れで追いかける田中君と加藤君。
少し気になり、部室の前へと行きそっと覗きこんでみる。
そこでは不良少年が仲遠一颯に土下座して「弟子にしてくれ!」とか叫んでいた。
……いや、本当に一体何なんでしょう?
「あれ、岩飛さん? 何してるのこんなところで」
「ヒャッ!」
不意に後ろから声をかけられ、驚いて声を上げてしまう。
部室の中に気を取られ、後ろから誰かが来ていた事に気が付かなかった。
恐る恐る振り返ると、見覚えのある女子生徒が立っていた。
「……あ、えっと黒須さん?」
「えぇ、そうよ。まさか名前を覚えてもらってるとは思わなかったわ」
覚えていたのはもちろん、彼女が仲遠一颯の友達だからだ。
「で、なんでこんな所で写真部を覗いていたのかしら? あ、私は一応ここの部員なんだけどね」
人差し指で部室を指し、告げる。
部活見学に来たら中で大騒ぎしてて、入りにくかったから中を覗いていただけなんだけど、上手く説明できる自信がない。
「……えーと、見学に」
「あ、そうだったの? それじゃ遠慮せずにどうぞ」
そう言い、部室へと入っていく黒須さん。
「見学に来てる人が……ってなんなのこの状況は!?」
入ると同時に驚き、声をあげる黒須さん。
良かった、部員にとってもおかしな状況だったんだ。
☆
「弟子!?」
「うっす! もしくは舎弟でも何でも構いやせん!」
「いやいやいや! いきなり何言ってんの!?」
外から戻ってきた御門が、私の前で土下座して変なことを言ってくる。
「俺、強くなりたくて今までいろんな奴と喧嘩ばっかしてきました。でも姐御ほど小さいのに強い人は初めてです! だから俺をどうか鍛えてください!」
「私は別に体鍛えてるわけでもないし、なんか教えることなんてできないって!」
「ではどうか側に! 姐御の強さの秘密は近くで盗ませてもらいます!」
「……え~」
困った。
ただでさえ狂犬なんて呼ばれて困ってるのに、こんな時代錯誤の不良野郎なんかを舎弟なんかにしたら一体どんな噂が立つことやら。
それは避けなければ。
「絶対に姐御の邪魔はしません!」
でも、どうやったらコイツは諦めてくれるんだろう。
……ダメだ。
私の頭じゃ思いつかん。
困ったときの幼馴染。
突然の事態に黙って呆然としていた、透流と京平に視線を送る。
それだけで私の意図を汲んでくれたのか、揃って首を縦に振る。
「おいおい、何勝手に人の幼馴染の舎弟になるとか言ってんだ?」
「あ゛? テメーにはカンケ―ねーだろ!」
「……とことん舐めた口きいてくれやがるなこのガキ」
「ガキガキウッセー! 1つくらい年上だってのがそんなにエライのかよ!」
額を突き合わせるほど近づき、睨み合う2人。
……どうにかしてくれとは思ったが、喧嘩してくれとは頼んでないぞ。
「待った、京平落ち着いて」
「止めんな透流、このガキに常識を教え込んでやるからよ」
「こんな所で喧嘩したら部長達にも迷惑だからやめるんだ」
「……チッ」
「おい逃げんのかよ!」
「御門、みんなに迷惑だからこれ以上騒ぐんだったら出て行って」
「っ! スイマセン姐御!」
うーん、とりあえず喧嘩は回避できたけど、事態は全然変わってないしな。
これからどうしよう。
その時
「見学に来てる人が……ってなんなのこの状況は!?」
部室の扉が再度開き、聞きなれた友人の声が部室に響いた。
☆
驚きました。
それが私の素直な感想です。
さっきまで怖い人が暴れたり、先輩と喧嘩しそうになってたり、私の今までの生活にはなかったことが立て続けに起きてびっくりしていたけど、そんなことがまるで些細な事のように思えます。
だって、こんなにも綺麗な人がいるだなんて。
テレビで見るような芸能人なんかよりも、今、目の前にいる人の方が私には何倍も綺麗に見える。
それはまさしく、私の理想。
まるで絵本から出てきたかぐや姫の様。
ちょっと胸が大きすぎる気がしないでもないけど、それでもこの人の美しさを損なうものではない。
「あの……」
思わず、言葉が口からこぼれる。
その声が彼女の視線を私に向けさせる。
あぁ、なんて大きく、澄んだ瞳でしょう。
こっちを向いた拍子に揺れた髪は輝き、揺れる度にまるでシャランランって鳴っているような気さえする。
「……どうかしたの?」
黙っていたら怪訝そうに声をかけられてしまった。
あぁ、すいません。
思わず声が出ちゃっただけなんです!
でも何かしら言わないと。
何か。
何か!
「あの、お姉さまとお呼びしてもいいですか!?」
焦った私は、そんな言葉を口にしていた。
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