竹×姫
非情に遅くなって申し訳ありません。
今日はいろいろとバタバタしていまして。
本当はもうちょっと先まで書く予定だったのですが、中途半端になってしまって申し訳ありません。
「岩飛さんって戻ってくるまではどこに住んでたの?」
「岩飛さんって部活はどこに入る?」
「い、岩飛さんって彼氏いるの?」
お昼休みに入ると私の周りに、クラスメイトの皆が集まってきた。
確かに転校生って珍しいものだし、こういう事態は想定していたけど。
い、いっぺんに喋られるとわからないよぉ!
ちょっと想像以上に人が集まった。
彼らの間断無く続く質問にうまく答えられず
「……あ、あぅ、それは……」
「……ま、まだ決めて……」
「……か、彼氏!?」
中途半端な受け答えしかできない。
しかし、そんな中途半端な受け答えでも面白いのか、質問が途切れることはなかった。
中には
「岩飛さんカワイイ~」
「アワアワして小動物みたいだよね~」
と言ってくれる女子生徒もいたが、私は知っている。
この「カワイイ~」は女子高生特有の言葉。
どんな場面でも連発するもので、本当に『カワイイ』と思っている訳じゃないってことは百も承知だ。
むしろ、からかわれている気がしてちょっと嫌だ。
だから、早く終わらないかな~と思うが、どんどん人が増えて来ている気がする。
質問も終わらないし。
けれど、このままでは彼らのおもちゃにされたままで昼休みが終わってしまう。
だから
「……すいません、私購買に行きたいので」
と言って席を立つ。
すると周りを囲んでいた人の中から
「じゃあ、俺が案内するよ!」
「いや俺が!」
と何人かの生徒が名乗りをあげる。
しかしそれらの申し出を
「……お気遣いありがとうございます。ですが、仲遠さんに頼もうと思っているんです。積もる話もあるので」
「あ、そっか~。転校する前は友達だったんだっけ」
「……えぇ」
実際は友達じゃなかったし、あっちは私のこと覚えてなさそうだけど。
そんなことを考えながら
「……あの、仲遠さん」
と仲遠一颯の背中に声をかけた。
◇◆◇
「いやいや、岩飛さんスッゴク可愛いよ!」
購買が視界に入るほど近付いたとき、仲遠一颯は私にそう言った。
お前が言うか!
他のだれに言われようが気にしないけど、お前にだけは言われたくない。
そんなにちっちゃくて可愛いのに、人に可愛い?
男子2人をはべらせておいて可愛い?
嫌味か!?
私自身が一番、自分がかわいくないってことはわかっているんだっての。
転校生のご機嫌とりか、私のことを思い出せないのを誤魔化すためか。
どっちかはわからないが、浅はかすぎる。
私にあんなあだ名をつけたアンタが、心中で私をどんな風に見ているかなんて、丸分かりだ。
「……やっぱり、仲遠さん私のことを覚えていませんよね」
だから、彼女が誤魔化そうとしていることを暴いてやった。
するとワタワタと言い訳を始める仲遠一颯。
しかし、そんな言い訳などどうでもいい。
「……ただ、私は必ず貴女に復讐する」
それだけだから。
☆
「『復讐』ね~」
時刻は放課後。
写真部の部室でお昼に言われたことを話す。
「一颯ちゃんは本当に厄介事を起こすわよね~」
笑うのはこの部室の主、写真部部長にして小城高四天王の1人『クイーン』こと、3年生の九条院華理奈先輩だ。
「でも身に覚えがってどころか、どこで会ったのかも覚えてないんだよね」
「それは田中君と加藤君も?」
「はい、4年前だったら僕達と一颯はいつも一緒だったですし」
「俺達も絶対会ってるはずなんすけどね~」
首をかしげる幼馴染。
いやホント、あんなに可愛い子と会ってたら忘れないと思うし、復讐されるほどの事をしたかどうか。
でも私には記憶を勘違いしたりしてた前科があるからな~。
「部長何か情報ないんですか?」
「うーん、流石に今日転校してきた娘の情報は無いわね。それに面白そうだから私は手出しする気もないし」
「え~」
「大丈夫よ、聞いた感じじゃ悪い娘じゃなさそうだし」
そう言って、意地悪そうに笑う部長。
「ま、そんなことより勧誘行ってきなさいな。恵子ちゃんだけに任せっぱなしは良くないわよ」
「え~、部長朝休んだんだから行ってくださいよ」
「てか5人いるんだから、無理に勧誘しないでもいいじゃないっすか」
「あのね~、そんなこと言って困るのは後輩たちなんですよ」
「……正論ですね」
「……いってきま~す」
幼馴染2人がチラシを持って出口へ向かう。
しかし、彼らが扉を開ける前に外側から扉が開かれた。
「あ、あの! 写真部に入りたいんですけど!」
そういいながら、開かれた扉から入って来たのは170センチを越えるほどの大柄な女の子だった。
◇◆◇
「わ、私、1年2組の竹野姫愛っていいます」
部室のパイプ椅子に、大きな体を縮こまらせて座った少女はそう名乗った。
「よろしくね姫愛ちゃん、私は部長の九条院華里奈よ」
「よ、よろしくお願いします」
伏し目がちに頭を下げる姫愛ちゃん。
まぁ、そりゃ緊張するよね。
今、姫愛ちゃんの向かい側には机を挟んで私達幼馴染み3人が座り、右手側のお誕生日席には部長が陣取っているんだから。
上級生に囲まれてさぞ居心地が悪いのだろう。
……この幼馴染連中は本当に空気が読めない。
空気読んで勧誘しに行って来ればいいのに。
「そんなに緊張しなくていいんだよ」
「は、はいぃ!」
「一颯、逆効果みたいだぞ」
「ウッサイ!」
「あぁ! すみません、私のせいですみません!」
「ふふ、その人達はいつもそんな感じだから気にしないで。ところで姫愛ちゃんはどうして写真部に入ろうと思ってくれたの?」
そう部長が問いかけると「あぅ」と言葉を詰まらせる姫愛ちゃん。
だがそれも数秒。
「……なりたいんです」
「何に?」
「私、もっと強く、可愛くなりたいんです! だから写真部に来ました!」
そう強く言い放った。
「……ゴメン、言ってる意味が分からないんだけど」
スルーしきれずに突っ込む。
「すいません! すいません!」
「いやいや! 怒ってないから! 大丈夫だから!」
「姫愛ちゃん、大丈夫だからゆっくり話してみて」
「は、はい。すいません」
「深呼吸でもしてみたら? 落ち着くわよ」
「あ、はい」
部長の言うとおりに深呼吸をする姫愛ちゃん。
「落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます」
そして姫愛ちゃんは語りだした。
「私、気が弱くて、いつもビクビクしちゃって、だから友達もいなくて、けど高校に入ったら変わろうって思ったんだけど、どうすれば変われるかもわからなくて」
ポツリポツリと呟くように語る。
「親は『かぐや姫みたいになれるように』って名づけてくれたんですが、名前通りになったのは身長だけで……ホント竹みたいにニョキニョキ伸びちゃって」
確かに、姫愛ちゃんの身長は170センチ中頃の透流より、ちょっと小さいぐらいだ。
私よりも、部長よりも圧倒的に大きい。
でも全体的に大きいわけじゃなく、縦に長いって印象だ。
「顔なんて明らかに名前負けですよ……」
うーん、常に下向いてるのと長い前髪から暗い印象は受けるけど、そこまで卑下するものでもないけどな。
ただ、その太い黒縁眼鏡はダサいかも。
でも言ってみればそれくらいで、問題はないと思う。
「だから、写真部に入ったら私変われるかもって!」
「ハイ、ストップ。そこおかしいよ」
「え、な、何がですか?」
「なんでそこで写真部なの? もっと『青春!』みたいな部活に行った方がいいんじゃない?」
「……あ、やっぱり私なんかが入ったらご迷惑ですよね」
「だぁぁ! 違うってそんなこと言ってないっての! ただ、なんで写真部を選んだのか知りたいだけ」
「そ、それは四天王の『クイーン』や、男子2人を虜にした『狂犬』がいるって聞いたから……」
「え!?」
「そんなすごい人達の近くに居れば、見習って私も変われるかなって! 自信がつくかなって!」
そこで勢いよく姫愛ちゃんが音を立てて椅子から立ち上がる。
「だから、私を写真部に入部させ「おぅ! 邪魔するぞ!」
そして、そんな姫愛ちゃんの勇気を振り絞った言葉を、部室の扉を開けて放たれた声が打ち消した。
「あん? どうしたお前ら、なんでいきなり俺のこと睨んでくるんだよ」
扉を開けて入ってきた馬場ちゃんに非難の目が殺到する。
「……あぅ~」
一世一代の宣言を邪魔された姫愛ちゃんは、真っ赤になった顔を両手で隠し、椅子へと座りこんでしまった。
「馬場ちゃん、今のは無い、今のは無いよ」
「要、タイミング悪すぎるよ」
「要、謝った方がいいと思うぜ」
「馬場ちゃん、後輩はイジメちゃだめよ~」
かけられる言葉と、顔を隠した姫愛ちゃんの様子から自分が何かまずいことをしたと気付いたのか、馬場ちゃんは頭を掻く。
「あぁ……、なんかわからんが悪かったな。てかお前デカいな、どんくらいあるんだ?」
「うわぁ――――ん!!!」
デリカシーのなさすぎる馬場ちゃんの言葉で、泣き出してしまう姫愛ちゃん。
「あー! 馬場ちゃんが女の子泣かした!」
「やーい! やーい! 先生に言ってやろぉ!」
「要、流石にひどい、ひどすぎる」
「うふふ、馬場ちゃんは私を敵に回したいのかしら?」
「だぁーもー! だからここには来たくなかったのによぉ!」
そんな部室内の惨状を見て
「……なんなんだここは?」
と呟く人物がいることに気付いたのは、少し経ってからだった。
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12/8 00:00 愛乃ちゃんの口調が「……○○」になってない箇所があったので修正




