勧誘×転校生
※12/3 19:50分 すいません、こちらの前書きに書いてなかったので追加。
現在2つの作品を連載していますが、1日おきに交互に連載をする予定です。
一章の時より更新が長くなってしまいますがご勘弁を。
良ければ「僕の君にやさしくない世界」も読んでくれるとうれしいです。
「帰ってきた、帰ってきたわよ」
私は帰ってきたんだ、この街に。
小学校卒業と同時に父親の転勤で引っ越したが、4年ぶりに戻ってきた。
この時をずっと待っていた。
この街には『アイツら』がいるんだから。
思い起こすのは小学校五年生の時。
当時のクラスには人気者であった2人の男子生徒がいた。
そして、彼らを独り占めにしていた女子も。
いつもいつも、彼らを独り占めしていて不愉快だった。
クラスの女子の大半は鬱陶しく思っていたんじゃないかな。
だからその日、私はその女子に悪口を言った。
大した内容ではなかった。
その女子も気にした様子もなく無視していたし。
その様子に腹が立ったが、それ以上やると問題になりそうだったので我慢してそこで止めた。
次の瞬間、頭上から水が降ってきた。
そして告げられた「カッパみたい」という言葉。
その後は大騒ぎになって私は早退した。
次の日、学校へ行くと私の呼び方が「カッパちゃん」になっていた。
それまでは女の子達の中でリーダー的な立ち位置にいたというのに、たった一日で「カッパちゃん」だ。
別にイジメられたわけではない。
でも、それまでの「アイちゃん」から「カッパちゃん」だ。
私の悔しさがわかるだろう!
その呼び方は学年が上がり、彼らと別のクラスになっても続いた。
最早「カッパちゃん」というあだ名の由来を知らない人にすら、「カッパちゃん」と呼ばれるようになっていた。
小学校を卒業した時、引っ越しが決まってうれしかった。
これで「カッパ」から離れられると思った。
しかし同時に、胸に誓った。
いつか必ず復讐してやる、と。
私をこんなみじめな目にあわせた奴らに、同じような目にあわせてやると。
「クククッ」
思わず笑い声が漏れる。
私はこの4年努力してきたんだ。
奴らに復讐するために、だ。
準備は万端。
「待ってなさい。田中透流、加藤京平」
そして。
「そして、仲遠一颯!」
☆
「君、背が高いね! バレー部に入らない!」
「僕達と甲子園を目指そう!」
「吹奏楽部で一緒にメロディーを奏でよう!」
次々と校門をくぐる生徒に勧誘の声がかかる。
今日から部活動勧誘週間が始まり、多くの部活が新部員獲得に励んでいるのだ。
かくいう私も、新入部員獲得のためにこの場にいるんだけど。
「写真部! 写真部はいりませんか!」
そう叫び、行きかう生徒たちを見上げながらビラを配る。
くっ、やっぱり身長差ってのはデカい
小さすぎて半分くらい気付かずに通り過ぎて行ってしまう。
さっきなんて男子生徒に
「どこからか声がぁぁぁ!」
とか叫びながら逃げられたし。
そして問題はもう一つ。
運よく止まってくれる―女子生徒が多い―生徒に勧誘の説明をすると
「え? 写真部ですか、写真はちょっと……カメラとか難しそうだし」
と困った顔をされたり。
「写真部? 『クイーン』がいるんでしょ、ちょっと怖いな~」
と苦笑されたりした。
そして、それらよりも多く
「写真部!? 『狂犬』がいるとこなんて無理です!」
「きょ『狂犬』がぁぁぁ!」
「わ、私には『狂犬』と一緒に部活なんてできません!」
なぜかみんな『狂犬』という言葉を使って頑なに拒否してきた。
それでも何とか、数人の生徒にはビラを握らせることには成功したけれど。
そして大した成果もあげられず、朝の勧誘は終わった。
◇◆◇
「だぁー! ぜんぜん写真部に勧誘できなかった!」
朝のHR前、机に突っ伏す。
「まぁ、仕方ないんじゃない?」
「そうそう、身長の問題はどうしようもないよ」
「てか部長はどうしたんだ? 今日は一颯と部長の担当だっただろ」
私の周りに集まった幼馴染と友人が慰めてくれる。
そして京平、いい所に気付いた。
私はポケットからスマホを取り出して、3人へと向ける。
「えーと『髪型がうまくいかないから、遅れます。1人だけど勧誘頑張ってね(>W<)b』?」
「……部長来なかったのね」
「御愁傷さま」
「髪型がなんだって言うんだ! カワイイ後輩よりもオシャレが大事なのか!」
「あの人らしいっちゃらしいけどな」
確かにらしいけど、勧誘初日にスタートダッシュ切れなかったのは痛すぎる。
「ハァ~、あ、そうだ。みんなは『狂犬』ってわかる? なんか勧誘するとみんなそんなこと言って逃げてったんだけど」
そう言った途端。
サッ
と3人ともが私から目をそらした。
「おい、なんだその反応は? なんか知ってるでしょ!」
「あ~、そのなんだ、黒須さんお願い」
「え!? 私!? いや、でもえっと、田中君よろしく」
京平が恵子に投げて、恵子は透流へと投げた。
どこにも逃げ場のない透流が観念したようにため息を吐いた。
「一颯だよ」
「は?」
「『狂犬』ってのは一颯のことなんだよ」
「はぁぁぁ!?」
どう言うことだ!
「どうして私がそんな呼ばれ方してるのよ!?」
「いや、どうしてってな~?」
3人が困ったように言葉を濁す。
「どうしてじゃねぇよ、当たり前だろ」
その時、声が後ろから掛けられた。
「馬場ちゃん!」
そこにいたのは天然の銀髪を狼の様に立たせた少年。
クラスメイトであり、友達の馬場要、通称:馬場ちゃんだった。
「おっす、要」
「おはよう、要」
幼馴染2人が馬場ちゃんに挨拶する。
「おぅ」
それに馬場ちゃんも片手をあげて軽く返す。
でもおかしいな。
「アンタたちそんな仲よかったっけ?」
ハッキリ言ってこの3人が話してるとこ、見たことないんだけど。
「「「ま、色々あってな」」」
揃って答える3人。
ふーん、まぁ仲がいいのは悪いことじゃないしね。
「で、当然ってどういうことよ馬場ちゃん」
「仲遠、お前自分の行動を少しは振り返ってみろ」
「?」
「教室でサッカー部の『風神・雷神』をぶっ飛ばし、不良をからかって遊び、四天王の『キング』を気絶させる。これを1日でこなした奴なんて他にいねーよ」
「うっ! それは……」
確かにあの日は大分暴れたもんな~。
「んでもって、そんな派手に暴れといても、普段は以前と変わらず大人しくしてるもんだからさらに不気味でな~。だから“仲遠一颯は切れるとヤバい『狂犬』だ”なんて噂が立ったわけだな」
え、それじゃまさか。
「今日勧誘が失敗したのって私のせい?」
「まぁ、責任の一端はあるかもな」
そ、そんな……。
ガックリと肩を落とす。
「大丈夫だって、一颯だけの責任じゃないよ!」
「そうだぞ! 俺達も頑張って勧誘するからな!」
幼馴染み2人が慰めてくれる。
あれ、でも……。
「そうだ! アンタたちが入ったからそんなに必死になる必要ないじゃん!」
部活動継続のために必要な人数、5人は越えているんだった。
「なーんだ、良かった良かった」
「うわ~、開き直ったわねこの子」
「オメーの悪名も、写真部の悪評も消えねーけどな」
うるさいぞ、そこの友達ーズ。
「おーい、HR始めんぞ~、席つけ席~」
そんな風に話していたら、担任の五堂利一郎先生(通称:ゴリちゃん)が教室に入ってきて、声をかけた。
生徒達がザワザワと席に戻る中、隣の席に座る馬場ちゃんに疑問に思っていたことを問いかけてみた。
「そう言えば、馬場ちゃんがHRに来るなんて珍しいね、どうしたの?」
「ん? あぁ、ちょっとな」
そう言い、ポケットからスマホを取り出してこちらに渡してきた。
「ん?」
その画面を見ると、一通のメールが。
「『今日のHRは楽しいことが起こる予感(  ̄▽ ̄)』from 九条院先輩……。なんだろう?」
「わからんが、あの人が言うことだからな。なにか起こるんだろうよ」
まぁ、あの部長の言うことだからな~。
「もしかして転校生かもよ」
と言ってきたのは私の後ろに座る恵子だ。
「ほれほれ、静かにしろよ~」
恵子に答えようとしたが、ちょうど全員席についたのかゴリちゃんがHRを始めてしまった。
なので、口を閉じ前を向く。
「今日はお前達が喜びそうな話があるぞ!」
皆の視線が集まった事を確認すると、ゴリちゃんはそう告げた。
ザワザワと教室内が騒がしくなる。
再び「静かにしろ~」と注意され、静まる。
「実は転校生がいます!」
その言葉で教室を先ほど以上の喧騒が包む。
私も、後ろの恵子に振り返る。
恵子も驚いて目を大きくしていた。
しかし、横目で見た馬場ちゃんは「こんなものか」と言う風に、頬杖をついてつまらなそうにしてたけど。
「うーるーせぇー!」
その喧騒をゴリちゃんが怒鳴り散らす。
「ったく、転校生が驚いちまうだろうが。いいかお前ら、今から入ってくるが騒ぐんじゃねぇぞ」
そう言い、教室を見回す。
クラスメイト達はウンウンと首を縦に振る。
その目は「早く入れろ!」と語っていた。
「本当に大丈夫かよ」とぼやきながらゴリちゃん。は廊下に声をかける。
「それじゃ入ってきてくれ」
「ハイ」
そう言いドアを開けて入ってきたのは女の子だった。
男子の一部が「オォォォ」とか感嘆の声をあげる。
私の目から見ても、輝くほどに可愛い女の子だった。
スラッと伸びた長い手足。
出るところは出ている、メリハリのきいた体。
その肌は白くシミ1つ無い。
目はこぼれるんじゃないかって程に大きく、二重瞼でぱっちりだ。
唇も信じられないくらいにプルプルで、綺麗な桃色で色っぽい。
そしてその髪は、枝毛もなく艶やかに輝いている。
烏の濡れ羽色ってのはこういうのを言うのだろうか。
前髪はぱっつんと切り揃えていて、残りは肩口まで伸ばしている。
いわゆる姫カットだ。
人を選ぶ髪型だが、彼女の美貌にピッタリと嵌まっていた。
彼女は教壇の真ん中、ゴリちゃんの横まで進む。
その歩く姿も優雅で様になっていた。
「それじゃ自己紹介をしてくれ」
「……はい」
色っぽい唇からこぼれた声も、儚げながら艶やかな声音だった。
黒板にチョークでカッカッと名前を書いていく。
その間誰もしゃべらない。
皆、息を呑んで彼女の動作に集中していた。
そして名前を書き終わった彼女が、フワリと効果音が付きそうな程軽やかにこちらに向き直る。
「……岩飛愛乃です、よろしくお願いしますね」
そして、丁寧に一礼する。
多くの人が拍手することすら忘れ、ぽーっと彼女の動きに見とれていた。
顔をあげた彼女は微笑みながら、教室のなかを見回す。
目があった男子達が心をわしづかみにされていく。
そうして教室を動いていた視線が
「……え?」
と言う声と共に止まる。
そこは教室の前方、具体的には私の席。
私と岩飛さんの視線がぶつかる。
うわ~、本当に目が大きいな!
とそんなことを考えていたら
「なんで仲遠一颯がここにいるのォォォ!
と先程までの色っぽさが微塵も感じられない叫びを上げた。




