公園×怪物
なぜでしょう、書いてたら増えてしまって結局1章の最終話になりませんでした。まだ続きます。
ですのでお気軽にお読みください。
「なんか昔を思い出すね」
「あぁ~、そうだな~」
「あの時、京平泣いちゃってたっけ」
「はぁ!? 何言ってんだよ泣いてねーし!」
「いやいや、泣いてたって」
「泣いてない!」
「泣いてた!」
「うっるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
私の後ろをついてくる奴らが騒ぎ出したので、怒鳴る。
その声が効いたのか、2人は不毛な争いはやめて静かになった。
だがそれも一瞬、すぐにこちらに話しかけてくる。
「まぁまぁ、そんなにイライラすんなよ」
「誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ!」
「あー、いや、まぁそれは俺のせいだけどさ」
気まずそうに頭をかく京平。
脇から透流も口を挟んでくる。
「でも怒ってたって事態は好転しないよ」
「騒いでても好転しないけどな!」
まったく。
「どうしてこんなことに……」
周囲には高く聳える木、木、木。
人影は私達の他にはない。
私達は迷子になっていた。
―数時間前―
「よし、みんな集まったわね?」
裏山の入り口に集まった部員達を見回し、部長が声をかける。
「遅刻する人もいなくて感心ね~」
「……いえ、部長。遅刻者はいますよ」
「あら? 全員揃ってるように見えるけど」
「そりゃ揃ってますよ! 集合時間から一時間も経ってるんですから!」
私の怒りの声に乗っかり、残りの三人も文句を垂れる。
「ここまで待たされると怒りの言葉すら出ません」
「さすがに待ち疲れました」
「そんなことより俺は腹減ったっすよ」
それらの文句を笑顔で受け流す部長。
「フフ、それじゃ皆揃ったし出発しましょうか」
自分が遅れたことなどなんとも思ってないのか、私達を置いて先に進んでいく部長。
その後ろ姿に何を言っても無駄だと私達は悟って、全員で肩を落とした。
「全然変わってないな~」
「まぁ最後に来たのは1年前だし。それくらいじゃ変わらないさ」
裏山―正しくは『小城山』と言うのだが―の山道を私達は歩く。
「加藤君達はよく来るんですか、この山に?」
私の隣を歩いていた恵子が、後ろを歩いていた2人へと声をかけた。
「そ~だな、ちっせー時からよく遊びに来てたよ」
「あぁ、黒須さんの家ってここから結構遠かったっけ?」
「そうですね割かし」
「この山は山って言っても低いし、中腹には公園があったりして子供の遊び場が多いんだ」
「道も整備されてて歩きやすいし、今日みたいな週末にはほら、家族連れやお年寄りが来てたりするぜ」
たしかに周りを行く人々も家族連れやお年寄りが多い。
私達と同世代の若者は見ないけど。
「結構地元じゃ人気なんだぜ」
「たしかに、この道もなんだか新しいみたいだしよく整備もされているのね」
「あー、いやそれは……」
「うん……」
言葉に詰まる2人。
そして後ろからチラチラとこっちを見る視線を感じる。
「……教えてあげればいいじゃない」
「あ、そう? 実はさ黒須さん、この道が整備されたのって一颯が原因なんだよ」
「おい待て、誰が嘘を教えろって言った! あれはどう考えても京平が悪かったでしょ!」
「いや、一颯だろう」
「京平だった!」
立ち止まって後ろを振り返り、京平とにらみ合う。
身長差で目を合わせるのがきつい!
こっちの方が高い位置に立ってるっていううのに。
「僕から見れば2人は同罪だと思うけどね~」
「「……ごめんなさい」」
言い争いを始めた私達を透流がたしなめる。
クソッ! あの事に限っては透流に頭が上がらない。
「……」
「ほら、黒須さんが困ってるじゃない」
「あ、いや私は別に」
じっと私達のやり取りを見ていた恵子が慌てて否定する。
確かに置いてけぼり喰らわせちゃったな。
「ごめんごめん恵子。実は私たち昔、この山で遭難しちゃったことがあってね」
「遭難!?」
「ま、半日にも満たない時間だったけどな」
「うん、でもその時に暗くなるまで帰ってこれなかったから、警察やら捜索隊やらと大騒ぎになっちゃて。そのせいで子ども達が迷子にならないように道が整備されたり、柵が出来たんだ」
道なりに立っている柵をポンポンと叩きながら説明する透流。
「なるほどね、今日は遭難しないでよ」
「「「……はい」」」
呆れたように言う恵子に、私達は揃って返事をした。
「コラコラみんな、楽しくお話しするのもいいけどちゃんとカメラも使いなさいね」
そんな風に話をしていたら先頭を行く部長に注意されてしまった。
「さて、ではここで人物写真でも頑張ってみましょうか」
30分ほど歩き、山の中腹にある小城山公園に到着すると、部長がそう言った。
「人物写真ですか?」
透流が疑問を口にする。
「そ、人物写真」
部長は公園にいる多くの人を指さしながら答える。
レジャーシートを引きお弁当を食べている家族。
アスレチックで遊ぶ子ども達。
ベンチに座り、陽光を浴びながら談笑する老人。
被写体はいっぱいある。
「わっかりましたぁ!」
「あ、待って! 加藤君」
駆け出す京平を呼び止める部長。
「注意事項があります」
戻ってきた京平を含めた私達4人を前にして部長が告げる。
「去年からやっている二人はわかっていると思いますが、人物を撮影する時は必ず了解をとってください」
「あ~、肖像権とかっすか」
「その通り、他にもプライバシーやら色々と。あとはちゃんと自分の身元を伝えることも忘れずに、あとは子供を撮る時は子供本人じゃなくて、親御さんに了解を貰うのも注意してね」
「なるほど、わかりました」
「それじゃ1時間ほど自由撮影で~」
そうして各々が公園へと散っていった。
「ねぇねぇ! 君の持ってるカメラカッコいいね!」
「わー、ホントだすっげ―!」
「少年達、確かに私の持っている一眼レフカメラはカッコいい。バイトの給料とお年玉がつぎ込まれているのだから当然ね。……けど私は多分君たちよりもかなり年上な高校生だから言葉遣いはちゃんとしようね」
「うっそだー! 俺高校生の姉ちゃんいるけどお前の2倍くらいは身長あるぞ!」
「そこまであるか! 私の2倍だと3メートルになるぞ」
「でもお前よりはずっと大きいぞ!」
「そうだそうだ! 高校生がそんなに小っちゃいわけあるか!」
公園に散らばったあと、1人で写真を撮っていたら子ども達に囲まれてしまった。
小学校中学年くらいかな、私より頭一つ分くらい小さい。
けどその体には溢れる元気が詰まっており、さっきからうるさく私に絡んでくる。
特に
「ちょっと貸してくれよ!」
「ダメだってば! これ高いんだから!」
「なんでだよケチ!」
「壊さないって言ってんだろ!」
と言いながら首にかけた私の一眼レフカメラを狙ってくるから困る。
「だぁー! これは私の1年間の結晶だから渡せないって言ってんだろぉぉぉ!」
少年たちの猛攻に、たまらずに大声を上げてしまった。
途端に
「ふぇ……」
少年達の一人がしゃくりあげる。
同時にその目にみるみる潤みだし
「ウワァァァァァァァァァン!」
大声を上げて泣き出してしまった。
「え、あ、ちょっ! ごめん!」
謝るが既に時遅し。
瞬く間にそれは他の少年達にも伝染する。
「ウワァァァァァン!」
「ヒッグ ウワァァァ!」
「グスンッ ウ゛ゥゥゥ ワァァ!」
私を中心として少年達の鳴き声が、あたりに響く。
ヤバい、周囲の人たちの視線が私に突き刺さる。
傍から見たら高校生が小学生泣かしてる場面だもんな、そりゃ注目も集まる。
くぅ~、泣きたいのはこっちだっての!
「ちょっと何してるの!」
どうしようもなくオロオロとしていたらそんな声が掛けられた。
発したのは女性。
憤怒の形相で仁王立ちになり私を睨みつけていた。
「ママ―!」
「シュウちゃん」
泣いてた子供の一人が女性に駆け寄る。
女性はその子を抱え上げ、あやした。
周囲の少年達もそれに触発されたのか、泣きながら各々の保護者の元へ駆け出していく。
その場には私と一組の親子だけが残される。
「ちょっとあなた、この子よりも年上でしょう! 年下の子を泣かすなんて何考えてるの!」
「すいません、でも……」
「言い訳はいりません! あなたの親御さんに話をします!」
「いや、私は高校生なんでここには部活で来てるんですけど……」
「高校生?」
私の体を上から下へとジロジロと眺め回す女性。
今の私は学校と違って私服だし、あまり高校生に見えないだろう。
証拠を見せろと言われたら学生証でも見せるか。
「そう、高校生が小学生を泣かせていたの」
学生証をどこにしまったかと考えていたのに、女性は私が高校生だと納得したのか話を再開した。
この見かけで信じてもらえるとは思わなかったけど、なかなか見る目のある人だ。
「いえ、それは……確かにすいませんでした」
「で、何でうちのシュウちゃんを泣かせたのかしら」
「……グス、そのカメラ貸してって言ったら怒られたの」
女性の胸元に顔をうずめていた少年が、私の首から下がるカメラを指さして言った。
「あら、そうなの。じゃそれ頂けるかしら?」
「……はい?」
何を言ってるんだこの人?
「許してあげるからそれちょうだいって言ってるのよ」
「いやいやいや! 無理ですって!」
「うちのシュウちゃんが欲しがってるのよ!」
「知りませんよそんなこと。それに、これは高価なものなんですからあげられません!」
「何よ! 大事にしたいの!? 問題になるわよ!」
問題!?
確かに高校生が小学生を泣かしたって地域に広がると大変だ。
私は停学・退学になるかもしれないし、部活動中の事だ、写真部だってどうなるか……。
私の沈黙をひるんだと受け取ったのか、女性が私のカメラに素早く手を伸ばしてきた。
ヤバい、取られる!
と思った時には時遅く、目の前までに迫る。
その手が
ガシッ
と唐突に横から出てきた手に掴まれ、動きを止める。
「何するのよ!」
女性は慌てて手を振りほどく。
最初から強く握られていなかったのかすぐに離れた。
「何って、貴方こそ何してるんですか?」
「その子がうちのシュウちゃんを泣かせたから、慰謝料としてそのカメラを貰おうと思っただけよ」
女性の口調は唐突に現れた男性の存在により、先ほどまでの勢いは失せている。
……でも頬が紅潮しているのはなんでだろうか。
そんな女性の目をまっすぐに見ながら、唐突に現れた男性、透流は言葉を吐く。
「その子は彼女のカメラを無理矢理取ろうとして、叱られて泣いたんですよ?」
「別に貰うって言ったわけじゃないんでしょ、少しくらい貸してくれればよかったじゃない!」
「一眼レフカメラは高価なものです。簡単に貸して、壊されれば双方が困る。あなたは、もしもお子さんが壊してしまった時、何万円ものカメラを弁償できるんですか?」
「何万! どうしてそんなもの小さな子が持ってるのよ! 盗んだんじゃない!?」
あぁ、そうか。
この人最初から私が高校生だって信じてなかったんだな。
小さい子供だと思ったから、カメラも言いくるめて奪おうとしてたわけだ。
「ハァー」
女性の言葉に透流は手を額に当ててため息を吐く。
「なぁ、おばさん」
そしてゆっくりと、底冷えするような声を出した。
「このカメラは、彼女が1年間頑張って頑張って、ようやく買ったものなんだ。これはアンタの子どもが悪戯半分で触っていいもんでもなければ、アンタにくれてやるようなもんでもないんだよ」
体全身から怒りと、苛立ちをにじませた透流のその言葉に、女性は何も言えず顔を青くしていた。
「しかも盗んだものだって? 馬鹿馬鹿しい。馬鹿らしくて付き合ってらんないよ」
グイッと女性に詰め寄る透流。
「消えてくれないか? そろそろ怒りを抑えるのも限界だよ」
「ヒィ!」
女性は短く悲鳴を上げる。
そして抱えた子供と共に走り去っていった。
「まったく、大丈夫だった一颯?」
「あーうん、大丈夫」
「でもモンスターペアレントってホントにいるんだね。びっくりしたよ」
「そだね」
「……どしたの? 本当に大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫だから!」
ホント、いつもこいつはいいタイミングで現れる。
私が困ってる時に颯爽と現れて助けてくれる。
あれ?
「ねぇ、透流」
「なんだい?」
「とりあえず助けてくれてありがとうね」
「どういたしまして」
「でさぁ、訊きたいんだけど」
「ん?」
「なんで私が叱って、あの子が泣いたって知ってたの?」
「……」
「アンタ、最初から見ていて、いいタイミング見計らって出てきたんじゃ……」
「……さて、そろそろ集合時間かな。みんなのところに行かないと」
「待てコラ!」
「ほら! 結果的には助けたしそれで……」
「その分は礼を言っただろうが!」
「気持ちは形で示さないと!」
「それじゃこの怒りの気持ちを拳の形で示してやるよ!」
逃げ出した透流を追いかける。
不毛な追いかけっこをしながら私達は、集合場所へとむかった。




