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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第一部 出会い

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6/11

岩之助、三人鍋に敗れる。

春風が強く小太朗の袖を揺らす。

小太朗は侍から離れないように、懸命に歩く。

峠道をゆっくりと歩く二人。

空には鳶がゆったりと飛んでいる。


「少し休憩するか?」

「まだ大丈夫だよ。」

「いや、俺が疲れた。」

道端の石に二人並んで腰掛ける。

風はいつのまにか止んでいる。

鳶はどこかにいってしまったようだ。


竹筒の水を飲みながら、小太朗は空を見上げる。

朝から大分歩いたはずだが、まだ昼前だ。


小枝がはぜる音に小太朗は振り返る。

そこには、若い男が剣を構えて立っていた。

思わず石から転げ落ちる小太朗。


「鍋の!ここであったが百年目、この前の恨み晴らさせてもらう。覚悟しろ!」

侍は、手ぶらでただ立っている。いつも通りの立ち姿。


奇声を発し侍に切り掛かる男。

侍は体の力を抜いたまま、ひらりひらりと身をかわす。空を切る男の剣。

「くそっ、神妙に切られやがれ!」

言いながらまた切り掛かる男。

侍はただ無表情に身をかわし続ける。


全身の力を抜いている後ろ姿は、襲われている者の緊張感は微塵も感じさせない。


しばらく懸命に剣を振っていた男は、ついに倒れ込む。肩で大きく息をしながら侍を睨んでいる。

「まだまだだな。」

言いながら、侍は背中の鍋を下ろす。


「小太朗、火を起こせ。」

慌てて立ち上がり、訳も分からず周りを見渡し木を拾い集める小太朗。

「お主も手伝え。」

侍は男の腰を蹴る。


わけもわからず、キョロキョロする男。改めて見ると男はまだ若く、今風のいなせな形に髪を結っている。

侍は手際良く料理の準備を始める。

鍋に残り物の食材をどんどん放り投げる。


湯気が立ち上がるにつれて、うまそうな味噌の匂いが立ち込める。


頃合いを見計らって、侍は三つの椀に汁を注ぎ始める。

「お主も座れ。」

男にも座るように促す侍。

何故か三人で鍋を囲むことになってしまった。


「いただきます。」

侍と小太朗は手を合わせて、汁を啜る。腹の中から体が温まる。

「お主も食え。」

「嫌だ。なんでお前が作った鍋を食べなきゃいけないんだ。」

「滅茶苦茶美味しいですよ。」

言いながら小太朗は箸を進める。

男はその様子に唾を飲み込む。


男は苦虫を噛み潰したような表情でお椀を見つめる。

ふわりと味噌の香りが漂う。


男は無言で汁を啜る。

暖かさが腹の中に広がる。懐かしい味、故郷の味がする。


侍はおたまで男の頭を殴る。

「飯を食うときは『いただきます』と言え!」


「…いただきます。」

無言で汁を啜る三人。小太朗は訳もわからず、無心に汁を啜る。


男は箸を置き、話始める。

「あの時はお前に敵わなかった。恥をかかされたんだ。この屈辱を晴らすまで、俺は故郷には帰れない。」

侍は男をじっと見つめる。

「お主が、町娘にちょっかいを出すからじゃ。」

「俺は、あの娘に一目惚れしたんだ。だから攫って嫁にしようとしたんだ。」

男は今にも噛みつきそうな顔で、侍を睨む。

小太朗は、ちょっとだけ男と距離をとる。


「お陰で子分の前で恥をかいた。復讐しようとお前を追いかけた子分は、やられて逃げてきた。」

男は、手が白くなるほど拳を握りしめている。

「だから俺が直接復讐しに来たんだ!」

侍は残りの汁を飲み干し、一人手を合わせる。


「何事にも順序がある。嫌がる娘を攫って嫁にできるわけがない。料理と一緒だ。」


小太朗は、何のことかわからず二人の顔を交互に見る。


「腹も膨れて落ち着いたであろう、復讐なんか忘れて、あの娘に謝りに行け。」

「確かに落ち着いた。今の俺じゃお前には勝てねえ。それもわかった。俺は修行して強くなる。」

言いながら、男はこちらに背を向けて走り出す。

小太朗はほっと息をつく。


侍は地面に落ちていた小石を拾い、男に向かって軽く投げる。

投げた石は綺麗な放物線を描き、男は倒れる。

「食べ終わったら、『ご馳走様』だ。」

男はガバッと身を起こし、こちらを振り向く。

「…ご馳走様でした。」

「うむ、よろしい。名前くらい名乗って行け。」

「俺は岩之助だ。首を洗って待っていやがれ!」

言いながら、男は振り向かずに走り去っていった。

「昔の自分みたいで恥ずかしいな。」

言いながら侍は頭を掻く。

「お師匠さんも、昔女の人を攫ったの?」

侍は少し微笑んで

「攫いはしないが、似たようなもんだ。」

小太朗は侍をじっと見つめる。

侍は少し遠い目をした。

春風が二人の頬をくすぐる。


「さて、都は向かうか。」

言いながら、侍は鍋を背負う。

「お師匠さん、もう食材がないよ。」

侍は顎をさすりながら、考え始めた。

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