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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第一部 出会い

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4/8

夢か、真か。

「お前らにやるものは何もねえ。」

暗がりの中から、しゃがれた声が聞こえた。

小太朗は思わず身構える。


「拙者達は、怪しいものではない。雨宿りさせていただきたいだけだ。」

侍はいつもと変わらぬ低い声で喋った。


「雨が止むまではいてもいい。だがもてなしはできんぞ。」

「ありがとう。」

小太朗は声を絞り出す。


「宿代と言ってはなんだが、残り物のおにぎりでもどうだ。」

言いながら侍は包みを差し出す。

「こいつはありがてぇ。」

暗がりから、一人の老人が出てきた。落ち窪んだ眼窩、浮き出た肋が痛々しい。

「温かいものもあったほうが良いな。」

言いながら、侍は囲炉裏で残り物を使った汁を作る。


夢中でおにぎりにかぶりついた老人は、慌てたせいでむせこむ。

小太朗は水筒がわりの竹の筒をそっと差し出す。

老人は竹筒を掴み、水を流し込む。

「坊や、ありがとう。」

老人の顔には赤みがさしてきた。そして貪るようにおにぎりを食べる。


老人を見ながら侍は、一瞬怪訝な顔をする。小太朗が気が付かないほんの一瞬。


侍は、湯気を立てる汁を椀に注ぎ、老人に手渡す。

老人は震える手で汁を啜りながら、話し始めた。

「戦続きで年貢は上がるし、野盗もウロウロしてやがる。落ち着いて畑仕事もできやしねぇ。」

老人は痩せた笑顔で、竹筒を小太朗に返しながら言う。

「そんなに酷いの?」

「この辺りは元々村だったんだが、今は俺しかいねぇ。みんな出ていっちまった。」

「…そうか。」

「都は賑やかだって言う話だが、俺らには関係ない話だ。」

言いながら、老人は乾いた声で笑う。

「まあ、うまいおにぎりを食わせてもらったんだ。何ももてなしはできんが、雨はしのげる。今晩はゆっくりしていってくれ。」

老人は言いながらまた、暗がりに戻っていく。


まだ雨はしとしとと、降り続けていた。


気がつけば小太朗は、眠ってしまっている。侍は上着を抜いで小太朗にかける。そして周囲への警戒を怠らぬよう、壁に背をつけてうつらうつらし始めた。


野鳥の囀りで侍は慌てて目を開ける。いつのまにか眠ってしまったようだ。

小太朗がまだぐっすりと眠っているのを確認し、ほっと一息つく。

雨はいつのまにか上がっており、柔らかな日差しが荒屋に差し込んでいる。


昨晩の老人はいつのまにか起き出したのか、姿が見当たらない。


一陣の風が吹き抜け、戸を揺らす音で、小太郎が目を覚ます。


「おはようございます、お師匠さん。」

目をこすりながら小太朗は挨拶をする。

「おはよう。」

「おじいちゃんはどこにいったの?」

侍は首を振る。


二人が身の回りの品をまとめていると、風で戸が倒れ荒屋に日が差し込む。


照らされた床の上、壁際には骸骨。


小太朗は思わず声を上げて後退りをする。

侍は腰の木刀に手を添え、身構えた。


二人はしばらく、ただそのままでいた。


侍は意を決して、警戒しながら骸骨に近づいて調べ始めた。

骸骨の手に握られたしゃもじ、米櫃の中の深い傷。


侍が指を触れると骸骨は、崩れ落ちた。

骸骨の足元には、空になった椀が転がっている。

「これ…昨日、おじいちゃんが使ったお椀だよね。」

侍はゆっくりと頷く。

「夢でも見たのかな…。」

小太朗は震える声で呟く。

「だからか。生き物の匂いがしなかったのは。」

侍は誰にともなく呟き、骸骨の前でただ目を閉じる。

小太朗は静かに手を合わせる。祈りの言葉は知らない。


侍は無言で立ち上がり、荒屋の裏に穴を掘り始める。

小太朗も近くに落ちていた木切れを拾い、侍と一緒に穴を掘る。ただ穴を掘る。


二人で老人の墓を作った。微かに風が吹き、草を揺らす。

並んで手を合わせる二人の影は、しばらく動きを止めていた。


侍は、黙って墓を見つめていた。そして視線を遠くの山の方へ向ける。

「さぁ行くか。」

「お師匠さん、どこへ?」

小太朗は侍をじっと見つめる。

乾いた風が吹き抜け、墓標がわりの木切れを揺らす音をたてる。


二人は歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
食へのこだわりがいいですね。 続きも楽しみにしています!
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