第2章:窓辺の少女 ――その星は、色のない部屋に灯った。
病室の窓辺には、風が静かに通り抜けていた。
しかし、その風は、誰にも触れられずにすぎていく。
ミナは、そこにいた。
長い時間を、そこに閉じ込められていた。
最初の頃は、笑っていた。
友達が訪れ、両親も優しく声をかけてくれた。
しかし、時間は静かにすべてを奪い去っていった。
今では、誰も来ない。
両親の顔からは、色が消え、表情さえ失われていた。
ミナの心も、少しずつ色を失いかけていた。
病室の白は、もはや白ではなくなり、
窓の外の空はただの灰色に染まっていた。
ミナは、何も感じなくなっていた。
壊れそうな心を、どうにか抱えながら。
「生きるって、なんだろう。」
誰にも聞かれぬように、誰にも届かぬように、
ミナは窓辺で小さく呟いた。
その声を、アオトは聞いていた。
病院の廊下の隅に立つ彼は、静かに窓辺に近づいた。
ミナは驚かなかった。
アオトの気配は、風のように静かだったから。
彼はポシェットから小さな光を取り出した。
それは、淡い青に揺れる星。
アオトの心をちぎって生まれた、痛みの光。
「これを、君に渡したい」
震える声でそう告げる彼に、ミナはそっと手を伸ばした。
星が渡された瞬間、病室の空気がほんの少しだけ柔らかくなった。
涙が零れた。
その理由はわからなかった。
だが、その夜、ミナは初めて自分の声で「ありがとう」と言えた。
私は、その光を見ていた。
アオトが初めて星を渡した夜。
その星は、色のない部屋に灯った。
そして、思い出した。
アオトがまだ小さかった頃、
窓辺で笑っていた誰かの姿を。
あの人は、アオトに名前を呼びかけていた。
「――アオト」
その声が、空気の隙間に紛れたような気がした。
星は、アオトの痛みだった。
でもそれは、誰かの希望にもなった。
私は、ヒカリ。
かつて星を受け取り、今は空にいる者。
アオトの旅を、静かに見守っている。
この夜のことも、決して忘れない。
――果たして、ミナの未来にどんな光が差し込むのだろうか。