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第1章:水辺の河童 ――その始まりは、誰かの祈りだった。

誰かの夜に、静かに灯る小さな光があります。

それは、言葉にならない祈りが形になったもの。


この物語は、ひとりの小さな河童、アオトが

“星”を届ける旅の記録です。


寂しさや痛み、孤独に寄り添い、誰かの心をそっと温める。

そんな“光”を、アオトは胸に抱えながら歩き続けます。


ひとつひとつ渡された星には、それぞれの誰かの願いが込められていて、

渡すたびに、アオト自身もまた少しずつ変わっていきます。


優しさは連鎖し、祈りは空へと還っていく。


この物語が、あなたの心に静かな光を灯せますように。


どうぞ最後まで、アオトの旅を見守ってください。


星の光は、いつも静かに始まる。


誰かの寂しさが、誰かの優しさに触れたとき。

それは言葉にならない祈りとなり、ひとつの命に宿る。


アオトは、そんな祈りから生まれた。

水辺に佇む、小さな河童。


旅に出てから、幾つの月日が流れただろう。


彼の足音は、いつも一人分だけ。


だが彼は、孤独を恐れてはいなかった。

胸の星たちが、温かく脈打っているから。


まだ見ぬ誰かの、寂しい夜のために。


背中に甲羅を背負い、頭には水を宿し、胸には六つの星を抱えていた。


彼はまだ知らない。

その星が誰かの夜を照らす力であることを。


そして、渡し続ければ、自分が空の一部になってしまうことを。


朝霧の立ちこめる川辺。


アオトは静かに立っていた。

ポシェットには、手作りの星のマーク。


人間の服を少しずつ身につけているが、どこか不器用だ。

皿の水が風に揺れて波打つ。


その水が、記憶を映す。

炊きたてのごはんの匂い。

干した布団の温もり。

誰かの笑い声。


それはもう戻らない日々の残り香だった。


「アオト、星は誰かの寂しさを照らすためにある。

でもね、渡すときは君の心も少し痛むはずだよ。

それでも渡してごらん。

その痛みが、君を空に近づけるから」


夫婦の声が風に混じって聞こえた。

その言葉を胸に、アオトは歩き出す。


星の意味は、まだ語られない。


ただ確かなのは、それが誰かに渡されるべきものであること。

アオトの胸で、静かに光を宿しながら。


彼は、星を渡す者。

それもまた、誰かの願いから生まれたものだった。


その祈りは今も、彼の胸の奥で灯っている。

そしてこれから出会う誰かの夜を、そっと照らすだろう。


星はまだ渡されていない。


だが、旅は始まっている。

静かに、確かに。


水辺の河童は、今日も歩いている。


――しかし、彼がこれから灯す星の数は、いくつになるのだろうか。

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