44 サスパニア出張旅行 その7_12
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「皆さん、落ち着いて! そうだ、……。もう、サスパニア出張旅行の旅支度は整いましたか?」
私はシルファー先輩だけでなく、ステラ殿下とミラに向けて、なるべく穏やかに訊ね返した。
「もぅっ、ハルコンッ! そんなの、いつものようにセロン(侍女)に任せているから大丈夫よ!」
なるほど。シルファー先輩は王族だから、旅支度も人任せか。
「ステラ殿下は如何です? 今回の出張旅行は、途中コリンドの帝都の宮殿にも表敬訪問で立ち寄りますから。殿下にとっては久しぶりの帰国ですけど、楽しみではありませんか?」
「まぁ、……そうですけどっ!」
この若年で、ほぼ単身でファイルド国に乗り込んでこられたステラ殿下だ。
私の言葉に対し、素直に頷かれていらっしゃった。
「シルファー先輩、ステラ殿下、これがハルコンのいつもの『手』なんです。こちらがいつも気にしていることをピンポイントで突いてきて、戦意を削いでいくのが、ホンと上手いんです!」
「「……!?……」」
どうやら、ミラの言葉が図星だったらしい。シルファー先輩とステラ殿下は一瞬頭の中で考えを巡らせた後、「「ハルコンッ!!」」と2人がかりで私の名前を呼んできた。
「はい。今日は、どうされましたか?」
私が笑顔を作って動じずに応じたところ、……。ミラはいきり立つシルファー先輩の耳元にコソコソと何か囁き始めた。
シルファー先輩はうんうんと頷いていたが、そのアドバイス? を聞き終えた後、長いため息を吐いて、私をじっと見た。
「ハルコン、……。あなた、このままサスパニアの皇帝になっちゃうの? 私達のこと置き去りにしてっ?」
「国王陛下からお聞きになられたのですか? 私はまだ11歳ですよ。先方の国の代表を務めている方ともお話をしたのですが、まだ口約束すらしていません。あくまで、仮の話なんですよ!」
「ホンと、……そうなの?」
「えぇ。私が皆さんに『嘘』を吐いたこと、……これまでに、ございましたか?」
なるべく落ち着いた調子で穏やかに訊ね返したら、シルファー先輩もステラ殿下もその言葉に納得されたのか、こくりと頷いた。
でも、ミラだけは私に対して多少耐性があったようだ。
「ハルコン、ではメリッサ殿下をなぜ王宮にお連れしたの? ちゃんと説明してくれないと、私達は納得しないよ!」
ミラの言葉に、シルファー先輩とステラ殿下が「よくぞ、訊いてくれたね!」と思ったのか、うんうんと頷いている。
そして、3人はお互いに頷き合うと、再び私のことをじっと見てきた。
「「「ハルコンッ! ちゃんと答えてっ!」」」




