44 サスパニア出張旅行 その7_09
* *
これは時間が前後するのだけど、……。私がサスパニアでの下見を終えて、ファイルド国に戻って早々のことだ。
私は元女盗賊さんと「半次郎」さんを伴って、先ず王宮で国王陛下と宰相様に面会した。
そこでサスパニアの元姫君のメリッサ様を預け、その足で勤め先である王立研究所に向った。
「ハルコン所長、そちらにいらっしゃいましたか。もうサスパニアまで、旅に出る準備は全て整いましたよ!」
到着後、研究所の廊下で秘書長のシリア女史から、私はいつものように明るく声をかけられた。
その際、私の両サイドには元女盗賊さんと「半次郎」さんが控えていて、……。まさに2人がかりでがっちりガードしている状態だったんだよね。
何だろう? まるで子供の頃、夕方のテレビで視聴た、黄門様と助さん格さんのトリオみたいな感じだね。
そう思ったら何だかおかしくなって、つい、ふふっと笑ってしまったよ。
すると、その場にいたシリア女史も元女盗賊さんも「半次郎」さんも、不思議そうな顔をしてこちらをじっと見てきたんだ。
私は直ぐに、「ンッ、ウゥーン!」と咳ばらいをひとつして、誤魔化すことにしたよ。
「そうですか。シリアさん、私の不在時にいろいろとお手数をかけて頂き、とても感謝します!」
私がニッコリと微笑み返すと、彼女は笑顔から少し怪訝そうに表情を落とし、「半次郎」さんのことを一瞥した。
「そちらの方は? 我々と、明らかに人種が異なる方のように見受けられますが?」
そりゃぁそうだろう。「半次郎」さんって、バリバリの元日本人だからね。
そのシリアさんの青い瞳で、「東洋人」的外見が気になってしまうのは、まぁ仕方ない気がする。
でも、そんな不躾な視線に「半次郎」さんはほとんど反応せず、クスリと笑い返していた。
まぁ、最近このファイルド国は、大陸中の様々な地域から留学や貿易目的で人々が押しかけてきているんだけどさ。
私の肌感覚としては、地球のヨーロッパ大陸のそれと、あまり大差ない感じがする。
実際狭いエリアだし、そうなると人種も西洋風の人々が主流となる。
「ハルコン所長、その者は東方の森の奥に住むと言われる、森エルフのハーフでしょうか? 耳は特徴的ではありませんが、その色白の肌に茶色い瞳、それと眼光の鋭さが、我々とは異質な存在に思われますね!」
すると、廊下で立ち話をしていた私達の傍に、カルソン主任教授が話に加わってきた。
「いいえ、教授。その者は『東洋人』という人種です。サスパニアからの客人ですから、丁重にもてなして下さいね!」
「了解しました、ハルコン所長。サスパニアについて、お訊ねしたいことが山ほどありますので、今度お話を伺えたらと思います」
カルソン教授がニッコリと微笑むと、「半次郎」さんもにこっと笑った。
まぁ、シリア女史もカルソン教授も、まさか「半次郎」さんが凄腕の殺し屋だなんて思いも寄らないんだろうなぁ。
とりあえず、2人には黙っておこうと私は思った。




