44 サスパニア出張旅行 その7_07
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「なるほど、ハルコン殿。それは、大変難儀をされたのでしたな!」
「えぇ、全くです閣下。ですが、こうして様々な成果を得ることができましたので、良しとしたいと思っております!」
「ふむふむ、……とても、興味深い!」
私の言葉に、農業大臣様はうんうんと納得されたように頷かれなさった。
今回の訪問の際、私がサスパニアから持ち帰った技術をいくつか紹介したところ、その先進性に大いに驚かれていらっしゃった。
持ち帰った技術は、先ず板ガラスで囲った農業ハウスでの冬季栽培、……。
それと、鶏とよく似たトサカ鳥の大量飼育、いわゆるブロイラー方式の説明を私が行ったところ、大臣様は大変興味深く話をお聞きになられていた。
現在はファイルド国を始め周辺各国は戦後復興期に入っており、人口が年々増加している最中にある。
そうなると、大量に栄養価の高い食事を提供する手段が必要となり、サスパニアでのこれらの成功は、大臣にとって喉から手の出るほどの貴重な情報だったようだ。
「ハルコン殿、もしよろしければなのですが、……。我々農業部からも、今度のサスパニア出張旅行に同行することは構いませんか?」
「えぇ、よろしいですよ。ですが、週明けにはシルファー姫殿下を代表団の団長として出発するのですが、間に合いますかね?」
すると、私の言葉に対し、大臣様は一瞬躊躇した表情を浮かべられた。
「王族は、当初参加されないとのことでしたよね?」
「はい。私が団長として率いていく話でしたが、……。まぁ、その、……ちょっと事情が変わったものですから、……」
さすがに、女神様と私との話し合いで、急遽シルファー先輩とステラ殿下、それと騎士爵のミラも旅行団に参加することになったことは、……まぁ内緒だけどね。
すると、農業大臣様はチラチラと周囲を見回してから、私に対してこっちこっちと手招きをされてこられた。
その求めに応じて半身を近づけたところ、大臣様は私の耳元でこう囁きなされた。
「お話は伺っておりますぞ、ハルコン殿。次期 陞爵の際には、公爵におなりになられるのだとか。王族を迎え入れて、今後セイントーク家も安泰でございますな?」
「えっ!?」
この話って、まだ本決まりではないし、……。
そもそも、最近の私に関するありとあらゆる情報が、王宮内部で緘口令が布かれているんじゃなかったっけ?
そんなことを思って大臣様をじっと見たところ、彼はコホンと咳をひとつなされた。
「ハルコン殿、ヒトの口に戸は立てられないのですよ! 貴殿はこのファイルド国だけでなく、周辺各国からも重要視されているお方だ。でも、まだご自身がお若いことを、くれぐれもお忘れ召されるな!」
農業大臣様はそう仰ると、私の脇の甘いところを、それとなく教えて下さったのだった。




