44 サスパニア出張旅行 その7_04
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「それはそうとハルコン殿、……。今回、そちらの元女盗賊のお嬢さんをこの場に同行させたのは、何か考えがあってのことなのですかな?」
「はい。彼女は東方3領を中心に、人材育成と派遣業を営んでおります。最近では、私の勤めている王立研究所の増築工事の現場に、多くの職人と作業員を派遣させております」
まぁ正直に言って、ラスキン国王陛下と宰相様に、私は元女盗賊さんを早いウチにお引き合わせしたかったんだよね。
今後の王宮の事業が順調に進むためにも、丁寧な仕事をする元女盗賊さんの事業所に業務委託できるといいなぁと思ってね。
だって、王宮にも元女盗賊さんにとっても、これはかなりいい話になると思ったんだ。
すると、陛下と無言で頷き合った宰相様が、興味深そうな表情で私をじっと見た。
「なるほど、ハルコン殿。貴殿の許には、これまた優秀な人材が集まるものですなぁ。では、元女盗賊殿、貴女にお訊ねしたいのですが、……。建築現場、土木現場の他に、どの分野で人を派遣することができますかな?」
私は、隣りに座る元女盗賊さんをちらりと窺った。
本日、彼女は夏用のフォーマルなパステル調のドレスに身を包み、顔には薄化粧を施している。
元々の美貌と相まって、最近は公的な場にも対応できるよう、いろいろと努力しているんだなぁと、思わず目を疑ったよ。
「宰相様、……本日はこのような場にお招き頂き、誠に感謝申し上げます」
そう言って、元女盗賊さんは貴族の子女がするように、ウフフと笑顔で頷いた。
何これっ!? まるでいつもの元女盗賊さんじゃないよっ!
大体、いつもだったら「宰相さまぁ、よか日に呼んでくれて、感謝でやす!」とか言ってニヤリと笑うところなんじゃないのっ!
そんなことを思いながら私が元女盗賊さんを見つめていると、彼女は少しだけ小首を傾げつつ、ウフフと笑顔で微笑み返された。
うわっ!? 大人って汚いっ!
まさか、異世界のファルコニアでも、営業スマイルを拝めるだなんて思わなかったよ!
「我が社では、土木建築の現場の他、各種商店員の派遣、事務員の派遣も行っております。最近では寺小屋の教員の派遣も行っておりますよ!」
「それは素晴らしい! 教育がこれからの国富のために、大いに重要ですからな。私の調査では、貴女の事業所では、獣人を始めとした屈強な傭兵部隊もおられるのだとか?」
「えぇ。おりますよ!」
「ほぅ。サスパニアにも今後防衛部隊を送ったりとか、……考えておられるか?」
そう言って、挑むように宰相様が元女盗賊さんの目の色を窺うと、……。
「うふふふふふ、……」
「はははははは、……」
2人は、そんな具合にお互いにいい笑顔で、……。声を出して笑い合った。




