44 サスパニア出張旅行 その7_01
「……、以上をもちまして、今回、私がサスパニアまで下見にいって参りました事の顛末となります!」
「……ふぅ~~っ!」
こちらの説明を聞き終えると、ラスキン国王陛下は、深く長いため息をお吐きになられた。
隣りに座る宰相様も同様に脱力された顔をして、「たはは、……。全く、ハルコン殿は、……」とぼやきなさった。
今、私はファイルド国、王宮のとある一室にいる。
その室内には、私の他に元女盗賊さんも同行させ、目の前でラスキン国王陛下と宰相様と膝を突き合わせて、綿密な話し合いを行っているところだ。
今回のサスパニア政府との事前交渉で、私は石原中佐さんら12名の政府要人を、地球の現代日本に連れていく話になったことを、陛下と宰相にお伝えした。
そしてその見返りに、サスパニアの「国体」と「権益」の両方を私が譲り受けるということも、ちゃんと伝えている。
とにかくこの件は、私の一存で、勝手に決めていい類の問題ではないと認識していた。
だから、できれば一度ファイルド国に持ち帰って、ラスキン国王陛下とも話し合いをする旨、石原中佐さんには予め伝えてある。
そして、この話に信ぴょう性を持たせるため、我々と明らかに人種の異なる人物を、私はサスパニアから連れ出していたのだ。
「ハルコン殿、……。その少女は、一体何者かね? 私には、遠い異国の者のように見受けられるのだが!」
宰相様はそう仰って、若干不審そうに彼女のことをじろりと見た。
すると、彼女もまた茶色の大きな瞳で、宰相様の青い瞳をじっと見返した。
その表情は笑顔だが、底が知れない雰囲気を漂わせているように私には思えた。
「彼女の名は『半次郎』。サスパニア政府の、……『特殊工作員』をしていた者ですね!」
さすがに「半次郎」さんが殺し屋だと、正直に伝えるつもりはさらさらないよ。
「ほぅ、……『特殊工作員』ですか。サスパニアでは、こんな年端もいかない少女に『現役』で活動させているワケですか。それは、大変興味深いことですな!」
「はい。サスパニア政府の代表を務めておられる石原さんから、彼女の身を預かっているところでして、……。まぁ、しばらくの間は、主に私の警護を担当させる予定でおります」
その言葉を聞いて、陛下と宰相の間で小声での話し合いが始まってしまった。
私は、元女盗賊さんと「半次郎」さんと共に、そのやり取りを黙って見つめていた。




