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天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生  作者: 西洋司
第一部「ハルコン少年期」
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43 サスパニア出張旅行 その6_11

   *         *


「おぉっ、『半次郎』っ! よくぞ、無事回復してくれたっ!」


 石原中佐さんをはじめとして、元日本人のメンバー達は皆でワッと全裸の「半次郎」さんを取り囲む。

 彼らの誰もが喜んでいる。中には涙ぐんでいる者もいる。


 女性のメンバーが気を使って、直ぐに「半次郎」さんにタオル地のガウンのような長めの上衣に袖を通させている。


 ハルコンは、このハルコンAという万能薬が、今回もまた一人の重症患者を無事回復させたことに、まぁ上手くいったねと思った。


「ハルコン殿っ、ありがとうっ、ありがとうっ!! ホンとかたじけないっ! 何とお礼を言っていいものかっ!」


 石原中佐さんが、目を見開いて私の両手をギュッと掴んでくる。

 まぁ、確かに大変光栄であり、嬉しい反応ではあるんだけど、……。


 でも、心のどこか片隅で、今回と同じようなケースをこれまでに何度も体験してきた私にとって、それはごくごくありふれた状況といってよかった。


 私が王立研究所の所長に就任後、ハルコンAの効能を示すために、全国各地にいる戦争被災者の許を訪ね、その治療を行って回っていた。


 それは、ファイルド国全土の国民の結束を図るとともに、また対外的には医療技術の先進性を対外的にアピールするために行った、ある種のプロパガンダ作戦の一環だった。


 ファイルド国各地には、周辺各国の間諜が、民間人に成りすまして潜伏中のはずだろうしね。


 私の医療行為を見てきた彼らが、それぞれの本国に持ち帰った後、我が国に続々と留学を志す者が詰めかけてきたのだから、その効果はホンと絶大だったと見ていいだろう。

 

 だからね。今回私が「半次郎」さんを救ったのも、単なる善意からではなく、これもあくまで国策の一環だという認識なんだよ。

 

 私はそんなことを思いながら、表面的には笑顔を浮かべて、「半次郎」さんと彼女を取り囲む元日本人達の様子を見つめていた。

 

 すると、「半次郎」さんと、ふと目が合った。

 私が目を細めてニコリと微笑むと、「半次郎」さんは素足のままこちらに近付いてきた。

 

 彼女は私の目の前に立つと、ニコリと微笑み返してくる。

 その私よりも若干年上と思しき、スラリとした身体。整った目鼻立ちからは、全く想像が付かないんだけれどさ、……。


 彼女は大陸で名を馳せた関西軍の「暗部」を司る、超一流の「殺し屋」なんだよね。


 もしかすると、健康な身体を取り戻した「半次郎」さんは、これから先、再び暗殺稼業に戻っていくのかもしれない。


 私は、前世の晴子の時、その最後に殺し屋に暗殺されてしまった経験を持っている。 

 そもそも私は人を助けることが使命だと思っているし、人を殺す者を心の底から憎んでいる。


 だから、「半次郎」さんが再びその手を血で染めるつもりなら、私は今日こうして救ったことを、これから先、ずぅ~っと後悔することになるんだろうね。


「ありがとう、ハルコン。大好きっ!」


 彼女はそう言って、私の両手を取ってニッコリと微笑んだ。


 人形のように精緻な顔の作り。邪気のない笑顔。その瞳の奥を覗くと、思わずこちらの心が吸い込まれていきそうな感じがする、……。


 なるほどね。「半次郎」さんは自身の「稼業」について、良心の呵責なんてものが微塵もないんだろうなぁと私は思った。

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