43 サスパニア出張旅行 その6_07
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「では、石原中佐さん。そろそろ、これで手打ちにいたしませんか?」
私はそう言って、石原中佐さんの目の前のテーブルの上に今も置かれている、小さなガラスの小瓶に目をやった。
その小瓶には、先ほど私が石原中佐さんらに伝えたとおり、フラワーインフルエンザに感染した鳥を仲介して、ヒトへと更に感染したそのサンプルが収まっている。
先日、鳥インフルエンザに感染したサスパニアの隊商の一人から回収したもので、まさに毒性も強く、新鮮な生のサンプルだと言っていいだろう。
その小瓶の隣りに、私はとある薬剤の入った小瓶を、そっと並べて置いたのだ。
「ほぅ。それが最近各国で話題の、……。ハルコンBというワケですな?」
「えぇ。仰るとおりです。今回の件、特にコリンドで蔓延した生物兵器の毒性レベルなら、継続的な衛生環境の整備と、このハルコンBだけで十分対処可能と言えますね!」
「しかも、……その薬剤で、我が国の国民をも救って頂いたというワケですな!」
「えぇ。まぁ、そうですね!」
私がニコリと笑ったところ、石原中佐さんは眉間に皺をよせ、口角を少し上げてから、……。
「ならば、……もう我々に打つ手なし、ということですな!」
そう言ってから、やるせないような笑みを浮かべた。
すると、部屋全体からすぅーっと、全ての殺気が消えてなくなっていくのを私は感じた。
私は、ちらりと隣りに座る元女盗賊さんの表情を窺った。
彼女は裏稼業のエキスパートだ。私には感じ取れない陰気など、全てお見通しのはずだから、その専門家に意見を求めることにしたのだ。
「えぇ。もう大丈夫でやんしぃ!」
彼女はニヤリと親指を立てて笑った。
「あぁ、なるほど。これで、この話の決着が付いたのか!」
そう思ったら、ついホッと一息、私の口からこぼれ落ちていった。
「それでは、ハルコン殿。我々サスパニアでは、まだ噂程度にしか伝わっていないのですが、……」
その言葉の調子から、どうやら漸く石原中佐さんから、私をサスパニアに招聘した真の理由を聞かせて貰えそうだなぁと思った。
「えぇ、お伺いいたしますよ?」
「ならば、……ハルコンAは、どの程度の薬効が期待できるのでしょうか? もしよろしければ、拝見させて頂いてもよろしいですかな?」
「はい。普段はなかなか国外には持ち出していないのですが、今回は特別です。我が国と今後『友好』関係を築いて頂けるのでしたら、継続的に供給することを約束します!」
そう言って、私は首からひもでぶら下げているハルコンAの入った小瓶を、胸元から取り出してみせた。




