43 サスパニア出張旅行 その6_05
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なるほど、……。やはりこの男こそ、今回の一連の騒動のキーマンだったか。
私の上げた名は、……山岡一広。
後世の私に接触してきた山岡次広、ハルベルト大学特任教授の実の父親だ。
しばらく黙ったままの石原中佐さんだったけど、……。
でも、私はその表情を見て、こちらも一緒になって黙っていられるほど、初心でもヤワでもなかったんだよね。
だからさ、……。石原中佐さんらの気持ちにはお構いなく、私はその後の経緯を端的に説明することにしたんだ。
山岡一広は、戦後混乱期に家族共々日本を脱出。その後、現地人を妻にしてアルメリア国籍を取得すると、繁栄真っただ中のポストン近郊に移住した。
その後の余生を、ハルベルト大学のキャンパスで研究に費やしていたことを、私は正直に伝えたのだ。
「まぁ、……イヤな言い方をすれば、山岡教授は研究者としては十分成功した人間だったのでしょう。戦前はあなた方の機関で働き、戦後はアルメリア政府のひも付きで、名門ハルベルト大学で教鞭をとった、……」
「……」
私の言葉に、石原中佐さんはなおも黙ったままだ。
おそらく、私の言葉の中に多くの毒が含まれているのを、敏感に感じ取っているからだろうと思われた。
「それででしてね、石原中佐さん。この人の一人息子である山岡次広もまた、アルメリア政府の走狗です。それがなお質の悪いことに、日本の最高学府にも教授の籍を持っていましてね。文〇省からの研究資金を、潤沢に受け取っている現状なんです!」
「……、なるほど。ヤツの息子は、相も変わらず我々の政府に上手く取り入っている、というワケですか、……」
漸く、気持ちの整理が付いたのだろう。石原中佐さんは面を上げて、こちらの話に加わってきた。
「えぇ、仰るとおりです。我々研究者の間では、豊富な資金で研究を行っているジュニアのことが、実に不愉快でしてね。それが、他所の貧乏な研究室にあちこち顔を出しては、札束で頬を引っ叩いて、その研究を買収してしまうんです!」
「ほぅ。そうでしたか、……」
「現在のジュニアの金主は、同国のとある大富豪です。まぁアホ面こいて2人がウチの大学の研究室の敷居を跨いだので、私の上司に当たる主任教授が、こっぴどく打擲してしまいましてね、ふふっ」
私がニヤリと笑顔でそう告げたところ、……。石原中佐さんは、そんな私の表情をじぃっと凝視してきたんだ。




