43 サスパニア出張旅行 その6_04
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「もしかすると、……いや、十分あり得るのですが!」
「……、はい」
「晴子さん、我々の機関の下で行われていた『フラワーインフルエンザ』の研究が、後世の世でどういう扱いになったか? その件について、貴殿はご存じのように見受けられるのですが、……」
石原中佐さんは、私に対し、おそるおそる言葉を選びながら訊ねてきた。
私は、相手が後世の日本において、自分達の行いがどのように評価されているのかワカらず、戸惑っているのだと思った。
だから、それとなく表情で口を「イー」として見せると、……。
彼は一瞬驚いた後、直ぐに「やはり、……そうなってしまったか」と、落胆の表情でその気持ちを吐露した。
「戦後、国の莫大な賠償金代わりに、戦時中の日本の研究成果の大半をアルメリアに奪われてしまいましたね!」
「ならば、……我々の研究していた『フラワーインフルエンザ』についても、……」
「えぇ。おそらくは、……」
「何と、……いうことだ!」
私の目の前で、当時の最先端の軍事機密を握っていた情報機関の面々は、戦後におかれた自身の立場の低さに、怒りとも嘆きとも言えない表情を浮かべている。
そんな彼らに追い打ちをかけるのは、私にとっては心外なんだけど。
でも、彼らの抱えていた研究の、その後の流れについて、……。私は、ちゃんと伝えるべきだと思った。
「アルメリアの研究者らは、戦後その研究を引き継いで、『フラワーインフルエンザ』に目を付けました。そして、鳥を媒介させることで、更に強毒化させることに成功しています。そのウイルスは強毒性が高いために、しばしの間は倉庫で眠っていたのですが、……。近年、私達の研究していたアイウィルメクチンが注目を集めた際、彼らはそれを解毒薬にしようとして、私達に接触してきましたね!」
「何たることだ! よもや、後世の日本人である貴殿に、……我々の研究が元で被害を被っていたとは!」
「えぇ、……。全くです!」
私は、本心から石原中佐さんに同意した。
元々日本の研究が齎した悪徳を、戦後アルメリアは正義面してブン捕った挙句、……。
今度はそれを更に強毒化させて、世界を支配する道具にしようと試みるこの現状。
「結局ね、石原中佐さん。悪意を基に生み出した産物は、回り回って元の場所に害悪となって降りかかるんです!」
「なら、……、我々はそもそも研究をすべきではなかった、……ということになりますな!」
「はい、……。当時の研究者の一部は、戦後アルメリアに亡命しました。おそらく、アルメリアがその命と引き換えに、彼らに自身の行っていた研究を差し出させることにしたのでしょう」
「……」
ここで、私は心当たりのある研究者の名前を数名上げた。
すると、石原中佐さんは、「やはり、アイツらか!」といって、小さく歯ぎしりをしていた。
そして、最後に私が上げた名前を聞くと、……。
石原中佐さんは、そのままグッと押し黙ってしまった。




