43 サスパニア出張旅行 その6_02
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「なるほど、……。それは、いささか心外ですね!」
私は、もう何の隠し立てもなく、本心を率直にサスパニア相手にぶつけていた。
すると、石原中佐さんは「ほぅ、……」と、少しだけ感心したような表情を浮かべた。
今回、私達の突然の訪問から始まった電撃会談なんだけどさ。
その会談は、最初から最後まで互いに腹を探りつつ、その懐に潜り込んで切り込むようなやり取りだったと私は思う。
そんな喧々諤々なやり取りの後に齎された感覚は、実に不思議なことに、……「和解」そのものだった。
私は、聖徳晴子の時代から今のハルコン・セイントークに至るまで、あまり議論というものをしたことがない。
そもそも、ヒトとは同じレベルの者同士でないと理解することはできないし、ましてや議論などは成り立たないのが普通だ。
その点、今回は私達ファイルド国側の方に理があったため、その議論は終始攻撃することに徹することができたのだけど、……。
でも、防御側のサスパニア政府の元日本人達の手練手管も、今思えばなかなか優れたものと言わざるを得なかった。
おそらく、このファルコニアと呼ばれる異世界において、他の国々の官僚達に、今回私達の行ったレベルの議論ができるのか否かと問えば、おそらくそれは不可だろう。
それだけ、この近現代の元地球人達のインテリジェンスは先進的であり、この中世ヨーロッパ風の異世界の文明レベルでは、到底追い付けないほど離れた距離で、私達は玉の取り合いを行っていたのだと、……私はつくづく実感する。
だから、あえて本音を言わせて貰うとさ、……。
正直、かなぁ~り気持ちよかったのだ。
「ねぇ、石原中佐さん。こうしてお近づきになることができたのですから、……。せっかくですから、女神様のお言葉どおりに、『皆、仲良く!』していきませんか?」
私は、本心からそう相手に提案した。
すると、石原中佐さんは、「えぇ、喜んで!」といって、……。彼もまた、一人の友人として、私にその「右手」を差し出してきたのだ。
もちろん、私は直ぐに「右手」で握手を返した。
「おや? 小水戸中尉からは、握手をすると突然放り投げられると聞いていたのですが?」
「ふふっ。それは『握手落とし』ですね。私は左利きのため、相手が私の差し出した左手に応じてくれた場合には、投げて差し上げております!」
「はははっ。それは愉快ですな、ハルコン殿!」
「ふふっ。お互い、異世界での生活に苦労した者同士、今後とも仲良くして頂ければと思います!」
「えぇ、こちらこそ! どうぞよろしく!」
石原中佐さんの目に、もう嘘もブラフも感じられない。お互いに似た境遇の者同士、今後とも仲良くやろうと、肚に決めたように思われた。
ならば、いっそのこと、……。
お互いに気心を知る関係となったため、私はここで更に一歩前に進もうと思った。
「私の地球での前世は、聖徳晴子。女だてらに、薬学で世界を救おうと思っていました!」
私が笑顔でそう告げると、石原中佐さんは優しい表情を浮かべて手招きする。
テーブルの前に身を乗り出すと、私の耳元にだけ聞こえる声で、……。
この場にいる12名の元日本人達。その本名と組織での正式な役職、任務内容を、端的に教えてくれた。
それは、私がこの世界に訪れるきっかけとなった、……。あの事件を連想させるのに十分な、まさに最高機密と呼ぶに相応しい一次情報だったのだ。




