43 サスパニア出張旅行 その6_01
「ハルコン殿、……貴殿の交渉力、いや胆力の強さはなかなかのもの。見かけによらず、目に見張るものですな!」
石原中佐さんはそう言って、私にニコリと笑った。
その表情には、何らかの敵意も害意も見受けられず、純粋にこちらに対して感心している風にも見えた。
中佐さんの隣りに座る小水戸中尉の方にも目を向けると、彼もまた、もう大体手を尽くしたといった雰囲気を匂わせている。
サスパニア政府、元日本人12人からしてみると、火薬での優位性も否定され、変異型の「鳥インフルエンザ」でも先手を取られてしまっているワケだ。
だから、もう彼らに打つ手はないのだろうと思われた。
「一応確認しておきたいのですが、……。ハルコン殿、その小瓶の中身の『病原体』とは、ヒトヒト感染の可能な『鳥インフルエンザ』とみて、間違いありませんな!」
最後に、念押しをするように、石原中佐が訊ねてこられた。
「えぇ、間違いありません。私のチートスキル『マジックハンド』にて、感染患者から直接抽出したものですよ!」
「なるほど、……」
石原中佐さんは、私の言葉にひとつ納得したように、……。漸く、頷いた。
その表情には、先ほどまで臭っていた穢れのようなものはなく、どこか晴れ晴れとした雰囲気が漂っていた。
とりあえず、これで今回の下見の訪問の目的が、やっと達成できたのかなぁ……と、私は思った。
「ふぅ~~~~~っ」
隣りに座る元女盗賊さんが長いため息を吐くと、こちらにニコリと笑いかけてきた。
私はひとつ頷き返すと、再び石原中佐さんをじっと見つめた。
「今回、我々ファイルド国を招聘するのに際し、何故王族ではなく、私だったのか、……。そろそろ、お話を伺ってもよろしいですか?」
こちらの問いかけに対し、中佐さんも、静かにため息をひとつ吐いた。
「女神様からのお達しでしてね。ハルコン殿が今後大切な協力者となりますから、お互い持てる手札を全て出し合って、それから正直に話し合いなさいと仰られたのですよ!」
「協力者、ですか?」
「えぇ。『皆、仲良く!』とのことでしたよ!」
私は、先日女神様から同様のアドバイスを頂いていた。
その言葉の主眼は、まさしく「皆、仲良く!」であり、それは同様に石原中佐さんらにも伝えられていた。
一体、女神様は私と石原中佐さん達を協力させて、何をやらせたいのだろう?
あえて言えば、それは私の数奇な運命のきっかけとなった、あの出来事から始まるのかもしれない。
それについて、私から石原中佐さんに、しっかりと伝えておかなくてはならないのだと思われた。
「石原中佐さんは、私の国で製薬する仙薬エリクサーについて、どのようにお考えでしょうか?」
私の率直な問いかけに対し、彼は顎に手をやって、しばしの間沈黙した。
「実は、……異世界のものですし。我々は、その信ぴょう性を疑っているところでした」
どうやら、嫌みでも何でもなく、……。中佐さんは、本心からそう思っているようだ。
 




