42 サスパニア出張旅行 その5_14
* *
「ほぅ、……。これは?」
「おや? 石原中佐さんは、これをご存じではありませんか?」
「……」
なかなか中佐さんがその小さな金属製の収納ケースを手に取ろうとしないため、私は再び自分から手に取って、彼の目の前にそれを軽く翳した。
「ご存じない? なら、あなたはどうです?」
私はそう言って、先ほどの元工兵と思しき青年に話を振ってみた。
元日本人であるメンバーのウチ、その青年だけは動き易そうなカーキ色のツナギに、部分的に皮を当ててガードを付けた出で立ちをしている。
どちらかというと、私達の重要なメンバーの一人である一級鍛冶士のドワーフの親方の服装と、共通点がありそうだなぁと思った。
規律よりも動き易さ重視、見た目よりも丈夫さ重視な感じ、……なのかなぁと。
その青年の眼付きの質も、他のメンバー達とはどこか異質で、……。
私が持参したその小さなケースを見た彼は、案の定、少しだけ眉根を曇らせてから、ゆっくりと頭を振った。
私は、「あぁこの人、このケースのこと、よく知っているんだなぁ!」と、その表情を見て直ぐにワカった。
「実はですね、……ウチの国の療養所に入院中の方から、こちらを頂きましてね」
「……、はぁ」
どこか気乗りしない返事をする青年に対し、私はなおも続けた。
「それで話を伺ったところ、移動中、隣国コリンドの沼地周辺で、渡り鳥の群れの中に落ちていたのを拾ったんだそうです」
「……、そうですか」
その青年がテーブルの上に落としていた視線を私に向けると、そのマイルドな口調とは別に、私が鋭く追及する目つきで睨んでいるものだからさ。
青年は、思わず居た堪れなくなったのだろう。
慌てて私から視線を逸らすと、私の隣りに座る元女盗賊さんの、少しだけオープンにしている豊かな胸元に、一瞬目をやった。
すると彼女は、すかさず「どうしたでやすか?」と気さくそうに笑顔で訊ねたら、直ぐにその青年の頬はカァーッと紅潮してしまったのだ。
元女盗賊さんはどことなく天然のあざとさがあって、男性がこちらに好意を持ってしまいそうな仕草をよく心得ていた。
彼女が大きくではなく、慎ましやかにその豊かな胸元をあえて見せているのも、……。
常に男性どもの間で主導的に動いている彼女にとって、それが一番合理的に相手を手懐ける術なのだろうと、私は思っているんだ。
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