42 サスパニア出張旅行 その5_04
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馬車を降りると、朝日が少しずつ昇ってきた。
結局、私と元女盗賊さんは碌に寝ることもできず、本日もまた徹夜作業になってしまった。
「もう朝かぁ。ふわぁ~っ」
そう言って、私は見た目の年齢のまま子供らしく、両腕を大きく上げて伸びをしてみたところ、……。
「プフフッ! ハルコン殿、それではまるでお子様のようでやすな!」
「ふふっ、私はまだまだお子様ですよぉ!」
まぁ、この仕草に反応してくれるのは、元女盗賊さんだけのようでして、……。
どうやらサスパニア側の人員達は、かなり私達に警戒しているように見受けられた。
私達の急な訪問を、出迎えに車止めの前まで現れたのは、全部で5名。
いずれの人員も旧軍の制服によく似た地味な外見で、カーキ色の丈夫そうな布地の、いわゆるアーミーコスチューム姿だ。
このファルコニアの世界では、たとえ軍人といえど、上級職の者はある程度身なりには気を使うものなんだけどさ。
でも、ここに現れた5人は、その服装からだと、下働きの者と勘違いされてしまうような出で立ちに見えなくもない。
まぁ、私ならその5人の所作、立ち居振る舞い、姿勢の正しさなどを見て、直ぐにピンときたんだけどさ。
この人達もまた、石原寛斎と共にこちらの世界に転移してきた、元日本人達なのではないかとね。
すると、横並びの5人のウチ、目つきの鋭い若年の女性が一歩前に進み出た。
「小水戸中尉殿、そちらの少年がハルコン・セイントーク子爵殿であるとのことですが、……。間違いありませんか?」
おや、……。彼女って、元女子通信隊の隊員とかなのかな?
小水戸中尉と同様の制服に身を包み、色白の肌におかっぱの黒髪。少しだけ釣り目がちの顔が、何とも大和なでしこの身体的特徴によく適っていた。
「ならば、少尉もハルコン殿に日本語で訊ねてみたらよかろう!」
その言葉に、「了解であります、中尉殿!」と即座に反応して、軽く敬礼をした。
私はね、彼ら元軍人達が日本語で全てやり取りしていても、聞き間違うことはないんだ。
でも、傍らで私の護衛をしている元女盗賊さんは、……その限りではなくてさ。
そんなタイミングで、その若い女性少尉が私の前まで進み出て、……。
日本語でいくつか軽い挨拶をした後、握手を求めて手を伸ばしてきたその瞬間、……。
「ひぃやぁーーっ!!」
元女盗賊さんは、懐に隠し持っていた暗器を掴んで、その女性少尉に突然襲い掛かったんだ。




