41 サスパニア出張旅行 その4_22
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すると、日本の旧軍の制服によく似た身なりの青年は、玉すだれを軽く両手でかき分けながら、躊躇なく室内に入ってきた。
「おやおやぁ、……。これは驚いた! まさかとは思っておりましたが、あなたはかのご高名なハルコン・セイントーク殿ではありませんか?」
先ず、第一声からそれだ。その青年は、いくぶん驚いた表情を浮かべてはいたものの、心の底からビックリしているというワケではなさそうだ。
「えぇ。よくご存じですね?」
こちらも、質問に質問を返すのは何だけどさ、……。
まぁとにかく訊きたいことは、お互い山ほどあるんだろうから、……。
これも仕方ないよね。
「それはもぅ。2週間ほど前に、我々政府は隊商の一団にファイルド国王宮宛に信書を預けたのですが、……。ふふっ、まさかハルコン殿、ご本人自ら、こんなにも早くこちらまでお出で下さるとは!」
そう言って、笑顔で歓迎する表情を浮かべた。
もしかすると、……。石原寛斎らの一派は、私も彼ら同様、女神様からこのファルコニアの世界に派遣されてきたことを、先刻ご存じなのかもしれない。
「お互い積もる話がおありでしょうから、こうして本隊が訪れる前に、私だけこちらに伺わせて頂きました」
「それにしてもお早いお着きで! まるで信書を手にされましたら、直ぐにこちらまでひとっ飛びしてきたような勢いですね?」
「えぇ、まぁ、……」
さて、その辺りのからくりは、なるべくなら黙っていたいところなのだけど。
「やはり、……チートスキル『マジックハンド』を利用されたとか?」
「えっ!?」
どうして、この青年は秘匿しているチートスキルのことを知っているのだろう?
最大限の警戒を怠らず、場合によっては再び元女盗賊さんを連れて、スキル発動してこの場を離脱すべきか?
「おや、驚きのようですね。本日の昼過ぎ、石原寛斎首相の許に女神様がご降臨されたのですよ。その際、女神様は特別にハルコン殿のことを目にかけていらして、ぜひ仲良くして下さいねと仰っていらしたのですよ!」
「なっ、なるほど、……そうでしたか」
そう告げながら思った。もう既に女神様のご采配で、事態の鎮静化は図られた後だったんだなぁと。
「我々石原政権は、貴殿の電撃訪問を歓迎いたします。つきましては、これから政府官邸にお二方をお連れしたいのですが、……」
私は、いつの間にか傍らに立っていた女盗賊さんを、じっと見上げた。
「ハルコン殿ば、それでよかなら、……」
ニィッと笑う元女盗賊さん。おそらく、相手の青年の力量を即座に目算して、こちらの戦力が不足していると判断したのだろう。
まぁ、……でも、私には奥の手があるんだけどさ。
例えば、スキル「マジックハンド」を使って、国境に聳えるフォリア山の頂を縦横奥行き300メートルの塊で回収して、その政府官邸の直上2000メートルの高度から落下させたとしたら、……。
などと、そんなことを考えていたら、……。
「ハルコン殿、我々政府は友好的に貴殿らを歓迎いたしますよ。できましたら、矛を収めてご同行頂けると、大変ありがたいのですがね!」
「え、えぇ。そうですね。我々2名、これから官邸までお伺いいたします!」
そう言って、努めてニッコリと笑顔を作って応じることにした。
サスパニアにお忍びで電撃訪問するも、直ぐに石原らに察知されてしまったハルコン。
これから首相官邸に招かれ、石原寛斎と夜遅くに面会することになりました。




