41 サスパニア出張旅行 その4_20
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私はいつもペンダント代わりに、仙薬ハルコンAの入った小さな試験管を、首から紐をかけてぶら下げていた。
そして、今回の私の奥の手なのだが、……。その試験管の中身のホンの一部を、「マジックハンド」を使って、元女盗賊さんの口中にそっと送り込んでみたのだ。
すると、彼女の青白い顔に、みるみる赤みが差してきた。
これでよしっ! 後は、……元女盗賊さんの方でも、上手くやってくれることでしょう。
では私は私で、相手の売り言葉を買ってみることにしますかね。
「ねぇ。ガキだからって容赦しない? 私達旅行者が、一体何をしたって言うんですか?」
「まだそんなことを! いっぺん痛い目見ないと、ワカらないのかいっ?」
なるほど、問答無用のようだ。
もう一人の少女は匕首を中段に構えると、じりじりとこちらににじり寄ってくる。
一間、……。
そして半間、……。
更に、私にとってジャストミートな間合いに入ったところで、……。
私はその踊り子に扮した工作員の少女に、ニコリと満面の笑みを浮かべて、こう語りかけた。
「私達はね、……旅先の人とは、みんな仲良くを心がけているんですよ!」
「はぁっ!?」
すると、少女は怪訝そうに表情を歪め、その歩みもピタリと止まった。
「そうだっ! これから、私と握手しませんか?」
なるべく友好的に、……。笑みを作って、そのまま左手をズィっと前に差し出した。
「何だいっ! その柔らかそうな手に、……毒でも仕込んでいるのかい?」
「いぃえぇ。私の手に、毒針の付いた指輪とか、何にもないでしょ?」
そう言って、私は空いた両手のひらを、ひらひらと振ってみせた。
「ふんっ。確かに、何も仕込んではなさそうだな!」
「だぁ~かぁらぁ、……。私達は、この国の下見にきただけですってば!」
「そんなワケあるものかっ! 我が国の警戒網を突破できるだけでも、並大抵の者ではないはずだっ!」
「ほらっ。だから、私と握手しましょ?」
どうやら相手の少女は、こちらの能力を見くびるのを止めたようだ。その表情に、段々と怯えの色が濃くなってきた。
「ぬんっ!」
向こうでは、元女盗賊さんに仙薬がさっそく効いてきたようで、……。
体調が回復するや、もう一人の少女にその場でヘッドロックを決めて、拘束してしまっていた。
「さって、……まんず、この仕打ち、どぅやって返すばいね?」
元女盗賊さんはニヤリとして、少女の首元に回した右腕に更に力を込めると、少女は苦しそうに「ぐへぇ、……」と呻いた。
「もう一回言いますよ。私達は、旅先の人とはみんな仲良く、……です。私と握手しませんか?」
目の前の踊り子に扮した少女の工作員は、私がこれから何か仕掛けてくることを恐れたのか、……。その薄化粧は見るからに脂汗で滲み、段々と垂れてきた。




