41 サスパニア出張旅行 その4_19
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それにしても、……だ。
サスパニアの警戒網、……こちらが最初に思ったよりもずっと厳重で、正直かなり侮っていた。
そもそも向こうさんのやり口がさ、……。以前本で読んだ万州の関西軍の情報部隊を、そのまんま踏襲しているんだからね。
「それでぇ~、……私達の国の、一体何を探りにきたんですかぁ? お姉ぇ~さんっ?」
そう笑顔で言いながら、踊り子の一人が、元女盗賊さんの胸元を構わず探り始めた。
「何するでやんしぃ! こげなこつ、後ば悔やんでも遅かばいでやしよ!」
「キャハハハハハッッ! お姉ぇ~さん、一体どこの田舎もん? ホォ~ンと訛りが凄かばいでやしよ! キャハハハハハッッ!」
いつもの元女盗賊さんなら、この程度の工作員など、軽く一蹴してしまうことだろう。
でも、今回は完全に身体の動きを封じられてしまっており、ぐったりした青い顔で、……まさに、されるがままの有様だ。
さて、……。なら、私はどう対処すべきだろう?
とにかく、いつも頼りになる元女盗賊さんの助力を、とても請えない状態だ。
でも、極めて幸いなことに、私も彼女もしびれ薬のような毒を盛られたワケではない。
あくまで食べ過ぎ。おそらく小一時間もすれば、通常どおりに身動きを取ることも可能だろう。
「ねぇ、……そこの少年!」
「……、何です?」
「アンタ、こんな危機的な状態だというのに、やけに落ち着いているわね?」
「……」
末端の工作員程度の踊り子の少女達に、いちいちこちらが答える義務はない。
とりあえず、……まぁ、ここは黙秘だなぁと思った。
「黙ってないで、何か答えなさいよっ!」
「……」
おそらく、今、まさに手練れそうな元女盗賊さんを捕縛して、少女達の心の中では小さな驕りが生まれているに違いない。
なら、前にも増して、こちらに大胆な振る舞いをしてくるんじゃないかなぁ。
見ると、さっそくもう一人の少女が太ももに隠し持った匕首をスッと構えて、こちらに近づいてくる。
その距離は、……ざっと一間(180センチ程)。
「私達は、ただの旅行者ですよ。大人数で伺う前に、一度我々2人だけで下見にきたんです! だから、早く拘束を解いて下さいっ!」
こちらとしては、率直に、極めて正直に相手に事情を訴えたつもりだ。
でも、少女達はお互いに顔を見合わせると、……。
「ぷふっ、何を世迷い事を!」
「ククッ、今さら言い逃れするのかい? ガキだからって容赦しないよ!」
あらら、……。
ふぅ~ん。容赦、……しないんだ?
なら、こっちも奥の手でいかせて貰うよっ!




