41 サスパニア出張旅行 その4_13
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何だろう、……。この店って、かつていた日本の雰囲気がプンプンする。
ハルコンはそんなことを思いつつ、間仕切りの隙間から伝わってくる店内の様子を、意識的にじっと見た。
すると、どうやら店の奥の少し上段のスペースが、ショーのステージになっているようで、……。
ちょうど2人の若い道化師が、何やら軽妙な話の掛け合いを続けている様子が窺えた。
テーブル席の酔客達がところどころで笑い出し、時おり拍手をして、……最後は軽い歓声に包まれる中、そのお笑いのワンステージが終わった。
へぇーっ。あれって、……どう取っても、ほぼほぼ「漫才」だよね?
そんなことを思っていると、……。
「ハルコン殿、料理の前ば、このちっちゃな器で出てくる『お通し』、……なかなかいいでやすな!」
「えぇ、はい。そうですね、……、えっ!? 『お通し』?」
「あぃ。さっきの店員ば、『お通し』ちゃぁ言いちょるとでやす!」
「へっ、へぇーっ!?」
思わず手前に置かれた器を取って、口にしてみたところ、……。
「ふぅっ!?」
とにかく、……美味かった。
細かく切った大根と、川魚の身をほぐしたものを、マヨネーズ味噌で和えているシンプルな一品。
「何これっ!? チョ~懐かしい味がするんですけどっ!?」
思わず感激して、ちょっと声に出してしまった。
「ハルコン殿、……これってば、セイントーク領のマヨネーズでやすな?」
「えぇ、そうですね」
「このマヨネーズば、何やら塩っけちゃぁ匂いばするっちゃね? 何混ぜとんと?」
「おそらく味噌、……ですね」
「メソ? でやすか? ホンに美味か料理でやすね!」
そう言ってから、元女盗賊さんは再び箸を手に取って、器用そうにパクリ、パクリと口に運び始めた。
すると、店の中ほどで、客からオーダーを取っていた別の店員の大きな声で、……。
「とりあえず『生』、入りましたぁーっ!」
「はいっ、とりあえず『生』、入りましたぁーっ!」
「はいっ、とりあえず『生』、一丁入りましたぁーっ!」
「はいっ、とりあえず『生』、入りましたぁーっ!」、……。
次々と店内に木霊する、店員達の「とりあえず『生』、入りましたぁーっ!」のかけ声。
えぇーっ!? 何なのっ、ここっ!? これじゃぁ、まるで日本じゃんっ!?




