41 サスパニア出張旅行 その4_11
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ハルコンと元女盗賊さんは、深夜営業中の居酒屋の入り口近くで立ち止まった。
「安いよ、安いよぉ~っ! 今晩宿に泊まれなかった、そこの貴方! 地元最安値のウチの店で夜を明かすのは、とってもお値打ち、財布に優しいっ!」
「はいっ、道ゆくそこのお兄さん、お姉さんっ! ここいらの宿に泊まるには、一晩で金貨一枚っ! はいっ、勿体ないよぉ~っ!」
店の真ん前では、お立ち台に上り、少しだけ透ける素材の民族衣装を身に纏った若い踊り子の2人が、艶のある優美な声で客引きを行っていた。
夜闇に浮かぶように、魔石の照明で赤色に照らされた少女2人は、まだ幼さの残る外見ではあるものの、ほんのりと薄化粧が施され、そこはかとない色気が感じられた。
まるで、エーテルの水槽の中を泳ぐ、優美な赤い金魚達のように、……。
ひらひらと、揺蕩うように舞う少女達。様々なポーズを取っては、再び決まった口上を繰り返していた。
往来の人々は、そんな優美な雰囲気の少女達を目の端で追いながらも、次々とその前を通り過ぎてゆく。
踊り子の少女達は、それでもなお辛抱強く、笑顔を崩さずに客引きを行っていた。
「ふぅ~ん。王都でも、こんな店はなかったかな?」
「で、やすな。ハルコン殿、ここでよきでやすか?」
「えぇ。そうですね」
少女達は、営業中、時おり店の中で軽いショーでもやるのだろう。
まぁ、ノルマとか相当厳しいんだろうなぁ、……。
ハルコンはそんなことを思いつつ、上背のある元女盗賊さんをちらりと見上げたところ。
「では、ハルコン殿。アタイに、任せるでやんしぃ!」
「お願いします」
その言葉に、元女盗賊さんは気を良くしたように笑顔で頷くと、スッと踊り子たちの前に立ち塞がった。
すると、少女達よりも頭ふたつ背の高い女が突然視界を塞ぐものだから、営業妨害されたと思ったのか、「何さっ!?」といって、キッと睨み返してきた。
でも、元女盗賊さんは太々しく笑顔でこう訊ねていた。
「オメェんら、まんずどこさ田舎の子でやんすか? アタイらも田舎から上がってきちゃぁども、都会モンにババ掴まされたんど!」
そう人懐っこい笑顔で、元女盗賊さんは親身そうに彼女達をしっとりと見た。
すると、少女達は一瞬お互いの顔を見合わせると。
「「キャーハハハッ、ホンに、ホンにババ掴まされたんと? きちゃない、きちゃなぃよぉ―っ、キャーハハハッ!」」
少女達が笑い転げている間も、元女盗賊さんは笑顔のまま、じっと立っていた。
「それで、何ぞ用さね? お客さんなら、接待するっちゃよ!」
「んだなぁ。オメェら、一晩ノルマいくらでやすか?」
すると、少女達は、お互いに顔を見合って、軽い相談を始めた。
「銀貨、……4枚欲しいっちゃよ!」
「そりゃあ、大金でやすな? も少し安くあんべぇか?」
少女達は、再び相談を始めた。
すると、元女盗賊さんは少女達に見られないように、尻の辺りで指3本を示し、こちらが頷いたところ、……。
直ぐに親指と人差し指をくっ付けて、OKの「マル」を作った。




