41 サスパニア出張旅行 その4_10
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知らない土地で、知らない街中で若い女と子供の2人連れだ。しかも、時刻はもう直ぐ日が変わる頃というのだから、現地の人からすれば、とても怪しさ満点だろう。
そもそも、このサスパニアの首都には、ファイルド国王宮お抱えの間諜でさえ、なかなか潜入できていないのだという。
それだけに、私と元女盗賊さんが仲違いするような言動は極力控え、少しでもリスクを回避した方がいいのは当然のことだ。
「よかですか、ハルコン殿! こんな夜更けの時間ば、お貴族様の坊ば外をうろちょろしていたらば、格好の標的でやんしょ。まんず、これからしばらくば、アタイば流儀に従って頂けやんしょ?」
「えぇ。それでお願いします。私のことを、護衛対象と見なくても構いません。ほんの少し、世間の常識を知らない弟とでも思って下さい!」
そう、強くこちらから訴えたところ、……。
「そんな、……ハルコン殿ば、弟なんぞ、ホンにアタイなんかにもったいなかっ!」
そう言って、元女盗賊さんは耳の先まで赤くなってしまった。
なるほど。どうやら、見くびられているワケではないらしい。
とにかく、私は潜伏作業に精通した元女盗賊さんの指示にちゃんと従って、なるべく多くの情報を掴んでこよう、……。
そう、ハルコンは改めて気を強く引き締めた。
公園の林を抜けると、辺りは石畳に変わり、建物の密集するエリアに警戒しつつ入っていく。
手元の時計では九つ刻(午前0時)を回り、そろそろ繁華街の中心地に入ったのだが、……。繁華街のためか、往来の人々が想定よりも多い印象だ。
通り過ぎる人々の身なりは、ファイルド国の王都に比べても遜色なく、小国とはいえ、サスパニアの国力は想定以上、……。
この現状を、早急に認めた方がよいのではないかと、ハルコンは思った。
「ハルコン殿、あの店に入るでやんす。よかね?」
「はい、了解です!」
見ると、どうやら居酒屋のようだ。入口付近に若い女が2人立ち、往来の人々に声をかけている様子が窺えた。
「客引き、……ですかね?」
「で、やんしょ。ハルコン殿ば、まだお子様でやんしょ。アタイば声をかけるに、任せてやんしぇ!」
「ワカりました」
とりあえず、元女盗賊さんのお手並み拝見といこうと、ハルコンは思った。




