41 サスパニア出張旅行 その4_09
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今が夏真っ盛りとはいえ、夜分の風はなかなかに沁みる。
私も元女盗賊さんも、準備なしに日中用の服できちゃったことだし、これからどこかの店にでも入って、軽く一息できればなぁ、とハルコンは思った。
周囲を見渡すと、茫洋とした夜の農園が広がっていて、人の気配はない。
「人っ子ひとりいないでやすね?」
「そうですね。安全を見て、首都の中心地から少し距離を取り過ぎたかもしれませんね?」
「そのようで、……やすね!」
その後、夜闇の中、眩い光に包まれた首都の中心地の方を、元女盗賊さんと共にしばしの間、じっと眺めた。
「東に3キロ(地球のモジュールで換算しています)ほどいけば、エドモンドば中心街でやしたね?」
「えぇ。時間がもったいないです。先を急ぎましょう!」
そう言ってから、適当な位置に生息している小動物のNPCの気配を、ハルコンは探った。
すると、ここから少し先に中規模の公園があり、夜行性のリスのNPCが木の実を齧っているのを探り当てた。
「ちょうどよか標的をば、見つけたでやしょうか?」
「はい! 私に掴まって下さい!」
「あい!」
さっそく、ハルコン達は中心地のはずれにある、公園内の林の中に到着した。
ハルコン達が突然現れたことで、標的のリスはとても驚いてしまったようで、……。
極度の緊張状態で金縛りにあったように、固まってしまっている。
「フヒヒ、お気の毒でやんす!」
そんなことを言いながら、元女盗賊さんはツンツンとリスを人差し指で軽く突っつくと、「で、これからどうするでやんすか?」と、笑顔で訊ねてきた。
「そうですねぇ、……。こんな時間に若い女性と子供の2人だけでは怪しまれます。どこかの深夜営業の店に入って、いったん落ち着きたいところですね」
「なるほど。今、手持ちばいくらござあんしょ?」
「現地共通通貨で、金貨20枚と銀貨30枚ってところですね」
「持ち過ぎでやしょ? 王都でも2か月、遊んでば暮らせるでやんし!」
すると、こちらの何げない言葉を聞いて、元女盗賊さんは若干呆れた表情を浮かべた。
うぅ~ん。私って、ちょっと常識足らずだったのかなぁ。
だって、せっかく先行偵察するんだよ。不足があってはダメじゃないかなぁって思ったんだけどさぁ、……。
それなのに、元女盗賊さんは半ば呆れた表情で、じっと見つめてくるんだからね。
「ダメ、……だった、ですかねぇ?」
ちょっと窘められるんじゃないかと思って、少し用心してそう訊ねたところ、……。
「いんや。たんだ、やっぱハルコン殿も、立派ばお貴族様になられたんだと思いなんし、……」
うぅ~ん。何だか、……ちょっぴり非難されてる?




