41 サスパニア出張旅行 その4_01
「さて、……と」
ハルコンは、王宮の庭の離れにあるステラ殿下の建物を後にすると、王都の街中を抜けて、再び王立研究所に戻ってきた。
現在建築中の建物には、いくつもの人力のクレーンが設置され、獣人の現場監督が大声で職人達に指示を送っていた。
そこから少し離れた位置に元女盗賊さんがいて、研究所の現場を仕切っているカルソン教授と何事か立ち話をしているのが見えた。
「おぉーい、こんにちはーっ!」
ハルコンは挨拶をしつつ2人の傍に駆け寄ると、背の高い2人はこちらの背丈に合わせて、少しだけ身を前に屈めて、ニッコリと返礼してきた。
「どうしましたか? 何かありましたか?」
「いいえ。軽い世間話ですよ。ハルコン所長の昔話を元女盗賊さんから伺って、さすがは伝説のお人だなぁと感心させられた次第でして!」
「えっ!? 私がですか? 私は至って普通の11歳の少年ですよ!」
こちらの言葉に、カルソン教授と元女盗賊さんは「「ほらね! 十分変わってる(でやす)」」といって、お互いにニヤリと笑っている。
「ハルコン殿は、並大抵ではないでやす。げにまっこと不思議なお方でやすね!」
「えぇ、ホンとに。所長のもりもり湧き上がるような胆力があれば、どんな難問でも解決できそうな気がしますね!」
2人がそう言ったため、ハルコンは「止して下さいよぉ!」といって、少しこそばゆい気分になった。
「所長。ハルコンA、B共にサスパニアに輸出する分、明日の午前中までには手配できそうです。出張旅行に関する他の物品や資材、食料などは、王宮からの支給が明日正午過ぎを予定しております」
「はい。了解しました。教授、手配の方、ありがとうございました!」
「いいえぇ。所長に比べましたら、私などまだまだ段取りが悪いですから!」
こちらの言葉に、カルソン教授はそう言ってニッコリと笑う。
すると、元女盗賊さんが横から「ふひひ、ハルコン殿に褒められていがったでやすな!」といって、教授の背中をバンと叩いた。
元女盗賊さんは、ただ単に好意的な気持ちを行動で示しただけだったのだが、……。
彼女の常人ならざる獣人並みのパワーで、一般人の背中を叩いてしまったら、埃が出るのではなく、思わず咳が出た。
「ゲッホ、ゲッ、……ゲッホ!」
苦しそうに、目尻に涙を湛えながら咳き込んでいる教授を、コリャしまったとばかりに大慌てで彼の背中を何度も撫でながら、「スマンでやす、スマンでやす!」と謝る元女盗賊さん。
「ふふっ、相変わらずだなぁ」
思わず、本音が出てしまった。
すると、元女盗賊さんは、「アタイの方をば、もう手配済みでやすよ。一級剣士の旦那やドワーフの親方も、いつでも出立できるそうでやす。女占い師の姉御ば、大店の旦那の馬車で移動すったら、軽装でよかとゆぅてばいよ!」というのだ。
「女エルフさんも準備万端ですか?」
「えぇっと、……いいゆぅちょるよ!」
さすがは、女神様の選び抜かれたNPCの皆さんだ。イレギュラーの事態にも即応できるのだから、こんなにも頼もしいことはないよね。
私がカルソン教授にOKサインを出したら、教授は「なるほど、……ゲホッ、さすがはハルコン所長を支える皆さんですな、ゲホッ」と、そう言ってむせ返りながら、何とか頷いてみせた。




