40 サスパニア出張旅行 その3_11
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私はステラ殿下の案内で、台所の隣りにあるリビングルームまで通された。
室内はざっと20畳ほどで、開口部の広い窓外の樹々の先に、王城と王宮を望むことのできる、なかなかの絶景スポットだった。
室内のインテリアはシックに落ち着いており、セイントーク領近辺で製作されたクッションやカーテンといったインテリア小物が、随所に配置されていた。
普段着のステラ殿下の生活がとてもハイセンスなのを、よく物語っていると言えよう。
「ハルコン、ここではあなたがお客様ですよ。どうぞ、お座りになって!」
そう仰ると、ステラ殿下はこちらの両肩を背後から押して、ソファーセットの席に着かせて下さった。
「あ、ありがとうございます!」
こちらも殿下にニッコリと微笑み返すと、台所の方からエプロン姿のシルファー先輩とミラが、ひょっこり顔を出してきた。
「おっ、ハルコン。今日はどうしたのかな?」
シルファー先輩が生クリームを鼻先にちょこっとだけ付けながら、笑顔で話しかけてこられた。
「は、はい。先輩、こんにちは! ミラも一緒かい?」
「うん」
ミラもニッコリ。
最近のミラはこうやって、いつも両殿下よりも一歩下がった位置に控えている。
実は、まだミラは子供で学生の身分とはいえ、もういっぱしの騎士爵の役目を果たしている。
何と、フルアーマーのオーダーメイドの鎧を、特別に王宮から支給されているんだからね。
衛兵式では、その姿で体の大きい大人達と共に参加しているんだ。
だから、……ホンと、ミラは偉いと私は思う。
まぁ、それはミラのハレ舞台の姿であって、普段の彼女は学生服や年齢相応のラフな服装で過ごしている。
そして、……現在もミラは任務中だ。
普段の彼女は、王立学校では「学友」という形で、学生服のままシルファー、ステラ両殿下の身辺を警護している。
また、学外ではこうして身の回りの世話も含めてサポートする、私服の「衛士」を立派に演じているのだ。
だから、第三者の目から見て、仲のいい子供達3人で遊んでいるように思われても、実際は絶えず周囲の異変を気にしながら、両殿下を守り続けていることになる。
緊張が絶えず、なかなかの重労働とも思われるが、ミラ本人は大切な役割を王宮から賜り、大変名誉なことだと、……むしろ親子共々感謝しているようだ。
ホンと、ミラはちゃんと貴族しているよね。




