37 研究所の長い一日_07
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ハルコンとカルソン教授は、若い医官達に近隣にある王立療養所まで案内されると、先ずは検体検査室にて採取されたサンプルを確認することにした。
「こちらです、ハルコン所長!」
「はいっ! 拝見しますっ!」
ハルコンはそう返事をして、食い入るように光学顕微鏡のレンズを覗き込む。
前回のブリーフィングの際、ハルコンは今後発生し得るいくつかの感染症の検査キットを、予め配布していた。
さすがに中世ヨーロッパ時代のような科学環境の下では、20世紀後半以降の地球のように、PCR検査で検出する方法は不可能だ。
だから、ハルコンはとてもアナログ的手法なのだが、……これまでのフィールドワークで獲得してきた様々な土壌から新たに酵素を得て、それを試薬にすることを思い付く。
そして、その試薬を前回のブリーフィングの際、関係各所に配布していたのだ。
今回その予防的措置が、功を奏した形となっている。
「さて、……どれどれ」
試薬で検出されたウイルスを、ハルコンはじっと見つめる。
「なるほど!」
そして、……直ぐにビンゴだと思った。
やはり危惧していたとおり、サスパニアの隊商達は、……鳥インフルエンザに感染していたようだ。
前世の晴子の時代、……特にその研究がスタートした頃を境にして、地球上には突然降って湧いたように、様々なウイルスや感染症が蔓延し始めていた。
そのいずれもが局地的に広まってはいたものの、各国政府が適切に検疫を実施することで、他国に流出することは辛うじて抑えることができていたと思う。
そんなある日のことだ。
前世の晴子が、国際会議にて自身の研究室の成果報告を行って、それから数日経過した頃に、珍しい客が研究室に訪れていた。
突然、何の前触れもなく、……この国の感染症研究最前線の教授と、大国アルメリアのとある大富豪が、全くのアポなしで訪問してきたのだった。
「あの人達、……ウチの研究室に、一体何の用ですかね?」
当時の晴子は、主任教授に率直に訊ねた。
すると、教授は緊張した面持ちで、「とりあえず、……会って話だけでもしてみるとしようか」と語っていた。




