37 研究所の長い一日_04
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現在、我が国は建国以来初の繁栄を享受しているのではないのかな?
ふふっと笑うと、その貴重なコメ料理を堪能する。
ハルコンの前世の晴子の頃、……あの当時も、毎日目まぐるしい日々を過ごしていた。
晴子はフィールドワークが大好きで、数日分の食料と水を用意すると、ナップザックに必要最小限の資材を詰め込んで、日本各地の森林の奥深くに潜っていったりしたものだった。
ある時は人里から10数キロ離れた国定公園の中で夜を過ごしたり、現地までの移動には身軽さを重視して、ホ〇ダの110ccのスー〇ーカブで奥地まで入ったものだった。
そして、数々の戦利品を山中の土壌から持って帰ってくるも、晴子が不在だった数日分の膨大な雑務を、その後で片付けさせられることが多かった。
「私にばっか頼ってないで、事務方に任せておけばよろしいでしょ?」
晴子は少しでも早く戦利品の調査をしたかったにも拘らず、雑務を押し付けられてしまい、さすがにイラっとしたものだが、……。
「いやぁ、……晴子クン関連の書類は、どれも秘匿性が高くてね。外部の者に、おいそれと任せてらんないんだよね!」
「なるほど。なら、私には弟が一人おりますので、彼に手伝って貰えばいいんですかね?」
「おぉっ、それはありがたい! で、その弟さんは今どうしているのかね?」
「それが、まだ学生なんです」
それを聞いた主任教授は、アララッて具合に肩を落とした。
「優秀なの、弟さん?」
「優秀かどうかはワカりませんが、……。ただ、私の母校の高校で生徒会長を務めていたり、剣道部の主将として国体にも出ておりますから、身のこなしは私よりも優れていると思いますよ」
「なるほど。将来、ウチでスカウトしたいものだねぇ」
結局、弟の進学前に私は事故で亡くなってしまったのだけど、……。
今頃、皆どうしているのかなぁとハルコンは思った。
「所長、少しお時間よろしいですか?」
見上げると、ハルコン直属のプロジェクトのひとつを任せている主任教授が、声をかけてきた。
怜悧そうな見た目で、片眼鏡のよく似合う20代後半の青年。
彼のハルコンAの特性に関する論文が極めて優れていたため、私としては、特別に目をかけている人物と言えた。
彼になら、私に何かあった場合にプロジェクトを引き継げると思い、研究業務については、全ての事を伝えているつもりだ。
「朝早くから感心です。どうされましたか?」
ハルコンは、ニッコリと笑顔で訊ね返す。
将来、研究でライバル関係になりそうな人物だが、仙薬エリクサーの有効性を高めてくれるのならそれも本望だと、心から信頼しているのだ。
すると、その青年教授は首を左右に振って目敏く周囲の様子を見た後、「お耳を拝借」といって、顔を近づけてくる。
「所長、……まだ正式には公表されておりませんが、……サスパニアから輸入された産品に、先日の『フラワーインフルエンザ』の症状と思しき『花枯れ』が見られました。今回それらを持ち込んだ商人数名が、現在隣りの王立療養所にて、緊急で隔離されております」
「えっ!?」
それはハルコンにとって、……まさに寝耳に水の事態だった。




