36 王立学校祭 その3_12
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その時晴子が使った技を、「握手落し」という。
道場の師範に特別に目をかけられていた晴子は、その技を「ここぞという場面で使いなさい!」と言われ、秘かに伝授されていたのだ。
呆然とする少年達を横目に、スタスタと先程よりうずくまる入門生達の許に向かう。
しばらく体のあちこちをさすって確認すると、ケガは大したことがないとワカった。
「「「「「オッ、オマエッ!? バケモンだぁーーっ!!」」」」」
次々と上級生の少年達が叫び出す。
晴子は至極冷静に、そちらの声の方に振り向いた。
「心外だなぁ。そんなワケないじゃないですかぁ!」
ニッコリと微笑んだつもりだが、相手の顔は皆真っ青だった。
ふふふっ。この技のイメージは、とにかく「先」を取って、肩甲骨で「波」を描くように回すことなんだよねぇ、……。
そんなことを思い出しながら、ハルコンは特設の壇上に上がっていく。
そして、キャスパー殿下の許に歩み寄ると、ゆっくりと左手を前に差し出した。
「「「「「!?」」」」」
すると、……何だろう。先刻まで明朗活発だった殿下が私を前にして、極度に緊張した表情におなりになった。
ふと背後から視線を感じ、ミラやシルファー先輩にも目を配った。そうしたら、彼女達もまた、何か不吉なものを見るような目でこちらを凝視してくるのだ。
ありゃ。もしかしたら、技をかける前に、奥の手を見破られちゃったかな?
キャスパー殿下は、心なし表情を青くして攻撃の姿勢を解いた。
そして、正対したまま両手のひらを頭の両脇に掲げると、「降参だ!」と仰って、ペコリと一礼してきた。
「「「「「!?」」」」」
その瞬間、会場中にドッとため息が漏れた。
どうやら、壇上の緊迫したやり取りが観客席にまで達したことで、当てられてしまったのかもしれない。
左手を前に差し出したまま、そのやり場に困ったハルコン。
キャスパー殿下にこうも警戒されてしまっては、もうどうしようもない。
まぁ、いいでしょう。ここが、落としどころですね。
そう思いながら、ハルコンは左手を元の位置にゆっくりと戻した。
「さすがはセイントーク流合気術の『始祖』様だね、……。私は左手ではなく、正式に右手でキミと握手がしたいものだな!」
攻撃の手をお止めになられたキャスパー殿下が、ごく自然な柔和さで、ハルコンに右手を差し出してこられた。
ハルコンもまた、いつもの優しい笑顔で殿下の右手を恭しく拝借する。
「「「「「「「「「「ワアアアァァァーーッッ!」」」」」」」」」」
その姿は誠に美しく、観客席から自然と拍手と歓声が沸き起こった。




