36 王立学校祭 その3_11
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「ふぅ~~っ」
ハルコンは腰に手をやりながら、少しだけ長いため息を吐いた。
さて、……武術を覚え立ての若武者ってさ、どうしてこう自らの力を示そうとするものなのかねぇ。
ハルコンは前世の晴子の時代を含めて、多くの武術を志す者達と接してきた。
その大半の者が謙虚だったのだが、特に少年や若い男性の中に、明らかに増長傾向な者もいた。
そしてその傾向の者は、概ね他の門下生を相手に、自らの能力試しをしてくることが多かった。
「ちょっと、この技試させてくんない?」
「頼むよ、試し打ちお願いできるかな?」
さすがに晴子にそのような申し出をする者はいなかったが、同門の格下の男子相手には、遠慮なくそう発言する者がいたのだ。
ある時のことだ。晴子がいつもの調子で稽古着に着替えていると、練習場の方から門下生達の叫び声がした。
嫌な予感がする。
晴子はサッと身支度を整えると、心臓が急速に昂るのを抑えつつ、ごく冷静な風を装いながら現場に駆け付けた。
すると、道場の端の方に、入門仕立ての少年数名がうずくまっているのを確認した。
「一体、何をやったのっ!?」
晴子が訊ねた相手は、……上級生の男子達数名。
皆晴子よりも背が高く、技の修練よりも喧嘩慣れしたタイプの少年達だ。
道場の少年少女の門下生の中では体がよく動く方なので、児童の部の門下生の間では、敬遠されつつも一目置かれている連中だ。
「稽古だよ。ちゃんとかわいがってやったぜ!」
すると、案の定少年達はうるさいのに詰め寄られてしまったなぁといった表情で、太々しく晴子のことを見下ろしている。
「いいから、……オマエもさ、先生には黙っていろよ!」
ニヤニヤと笑う少年達。中には晴子の真面目な表情を見て噴き出す者もいる。
なるほど。そろそろコイツらには、「躾け」の時間が必要のようね、……。
晴子は、ここでスゥ―ッと一呼吸すると、ニッコリと微笑みながらリーダー格の少年の前に、静かに左手を差し出した。
「おぉ~いっ、晴子。握手なら右手だぞっ!」
ニヤニヤと嗜める少年。
「あらっ、そうなの! 私左利きだからさ、間違えちゃったかな?」
そう言って、白い歯を見せてテヘヘと笑う晴子。
「いいぜっ! これでオマエもオレ達の仲間だなっ!」
そう言いながら、道場一の美少女の左手を、……しっかりと握った。
「「「「「!?」」」」」
その瞬間、その少年はぺたりと床に両膝を衝き、ごろりと寝かされてしまっていた。
道場にいる子供達、皆が唖然とする中、晴子はそのまま横たわった少年の横腹に蹴りを一閃。その場で卒倒させてしまったのだ。




